師匠。1 ‥鍵‥

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僕は泥棒だと思い、一瞬パニックになったが体が硬直して声をあげることもできなかった。 僕はとりあえず寝てる振りをしながら、薄目を開けてそっちを凝視していると男はふらふらした足取りで体を起こすと玄関のドアの方へ行き始めた。 『いっちまえ。何も盗るもんないだろこの部屋』 と必死で念じていると男はドアを開けた。 薄明かりの中で一瞬振り返ってこっちを見た時、右頬に引き攣り傷のようなものが見えた。 男が行ってしまうと僕は師匠をたたき起こした。 もうほとんど半泣き。 しかし師匠とぼけて曰く 「あー怖かったー。でも今のは鍵しても無駄」 「なにいってるんすか。アフォですか。ていうか起きてたんすか」 僕がまくしたてると師匠はニヤニヤ笑いながら 「最後顔見ただろ?」 頷くと、師匠は自分の目を指差してぞっとすることを言った。 「メガネ」 それで僕はすべてを理解した。 僕は視力が悪い。 眼鏡が無いとほとんど何も見えない。 今も間近にある師匠の顔でさえ、輪郭がぼやけている。 「眼鏡ナシで見たのは初めてだろ?」 僕は頷くしかなかった。 そういうものだと初めて知った。 結局あれは行きずりらしい。 何度か師匠の部屋に泊まったが2度と会うことはなかった。
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