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二つの上級魔法が直撃し、爆煙がスローンデーモンの上半身を包み込む。
しかしそれでも、俺の警戒は全く解かれない。
上級悪魔に対し、たかだか一介の魔法使いの上級魔法が決まったからと言って、それに何ら希望を見いだせないのだ。
とある噂じゃ、五十の剣士と魔法使いの軍隊をたった一匹の悪魔が全滅させたこともあるという。
極限まで高まる俺の緊張を、少しでも紛らわそうとモナに目をやる。
スローンデーモンの足元にいるモナは、何かに気が付いて高速反応を起こす。
モナは風の下級魔法“フェーン”の魔法陣を手の平にほんの一瞬で紡ぎだし、バックステップに合わせて魔法を展開。
モナの手の平から、爆発的な風が放たれ、空中での推進力になり、モナの体を加速させる。
刹那、モナが先ほどまでいた空間が、暗黒の鎚に叩き壊される。
その正体は悪魔魔法“デフ”だろう。
悪魔を形成するエネルギー、“負”をそのまま対象にぶつけるその魔法は、生身の人間が食らえば確実に死が約束される。
「やはり、貴様の魔法など宛にはならんな」
バックステップに合わせた“フェーン”の連続発動で、一瞬で俺の横に立ったモナは早速嫌味を言ってきた。
「本気でへこむよ……まさかここ一番の切札が通用しないなんてな」
モナに返しながら、俺の視線はモナでは無い物に向けられていた。
『るぅおお!』
咆哮と同時に晴れた爆煙の中から現れたのは、僅かに傷を負ったスローンデーモンの禍々しい姿。
これはもう、俺達は死ぬしかないな。
こうなったら、今までの怨みを兼ねて、殺される前にモナを殺してやろうか、いやでも俺の魔力はもう残り少ないし、例え全開でもモナには勝てないしアハハハハ
「どうした、アホズラにさらに磨きがかかっているぞ」
壊れ始めた俺の頭を、モナの涼しい声が引き留める。
「そう絶望した顔をするな。 見ろ」
クイッと首を傾けた先には、巨大な翼を広げ、夜空へ飛翔するスローンデーモンの姿があった。
「逃げるのか……」
「奴ほどの悪魔が逃げるほど、私達は追い詰めたか?」
言葉を交わしながらも、俺達二人の視線はスローンデーモンから離れない。
「どちらにせよ、助かったな」
「いいのか、あの悪魔がまた残り少ない女を連れ去っても」
「そうなったら、装備を整えてから戦うさ」
夜空に飛び立った悪魔の姿は、皮肉にも一枚の絵のような神秘さだった。
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