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スローンデーモンとの戦闘から二日、俺とモナの二人は山奥を歩いている。
服や靴は汚れ、暑いし疲れるしで、今の俺の気持ちを二文字で表すとしたら最悪の一言に尽きる。
「マキ、虫」
接続詞の抜けた間抜けな言葉と共に、何故か強烈な右フックが俺の頬を撃ち抜く。
あまりに不意で、あまりに痛い一撃に俺の思考は停止してしまう。
「悪い、逃がしたみたいだ」
もの凄く痛む頬をさすりながら、俺は目前の右フックを放った者を見上げる。
バカでかい剣を背負い、質素な布切れのような服なのに、炎のような赤髪と無駄な美貌でどこかの貴族みたいな女。
その顔はどことなく残念そうだ。
「モナ……虫がどうしたんだ」
俺はなんとなく予想が付きながらも、恐る恐る尋ねてみる。
顎も殴られたらしく、口を開くと痛い。
「貴様のそのぶさいくな顔面に、蚊が止まっていたのだ。 私はそれを殺してやろうと」
蚊を殺すために右フック!?
しかし蚊よ、元の原因は貴様か、ならばぶち殺してやるまでだ。
「ん、貴様何をしている」
「“ヴリトラ”で燃やし尽くしてやるよぉ!」
モナもついでに殺す勢いで炎系上級魔法“ヴリトラ”の魔法陣を紡ぎ始める俺。
「阿呆か貴様?」
「この地上でモナにだけは言われたくないね」
ヴリトラの魔法陣が完成する前に、モナの見事な右ストレートで俺の負け。
俺達は相変わらずだ。
「遊んでいる場合か、早くしないとスローンデーモンが逃げてしまう、じゃなくて周りの人々に被害を与えてしまう」
もはや突っ込みはスルーで。
モナはくるりと身を返すと、また先に進んでしまう。
ただでさえ体力の無い俺は、本当に後悔している。
なぜこんなことになっているのか、あの戦闘から逃げ去ったスローンデーモンを追うと言い出したモナのせいだ。
止めても無駄だと判断した俺は、泣く泣くついていくしかない。
先生、俺の夢はいつかモナを服従させて俺のナニをくわえさせることです。
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