プロローグ◆非力な魔法使いと、豪気なる剣士

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 鋼鉄の鎧を纏ったその女は、常識外れの俊敏さで俺の横を駆け抜けた。  振り上げられた巨大な鉄の塊が、けたたましい風切り音と共に、“悪魔”の脳に叩き込まれた。  一撃必殺。  人知を超えた存在、悪魔を一撃で殺したその女は、すぐさま次の相手を定める。 『ギャアアアア』  悲鳴にも似た咆哮、悪魔どもが俺達二人を相手に本気を出したみたいだ。  だが、もう遅い。  俺が空中に描いていた魔法陣を悪魔が目にした時には、それはもう発動される。 「ライトハンドに絞り出され、虚しくもティッシュに散っていった我が息子達の絶望を受けよ――」  俺の詠唱に応じて、俺の両手に握られた杖が光を発する。 「“アグニ”!」  炎の中級呪文を、悪魔めがけて発射。  灼熱の火柱が、空中に描かれた魔法陣から放たれる。  炎にのまれた悪魔が悲鳴をあげるが、俺の良心は痛まない。  息子の仇だ。 「カイン、アレシエル、マイク、フロスト、ディック、エリカ、マーニャ……」  俺が哀愁に浸り呟いていると、俺の頭上にアグニから逃げ切った悪魔が、鋭い爪を向けていた。  魔法使いは接近戦はからっきしなんだよ! 「ひいぃ」  俺が情けなく頭を抱えてしゃがみ込むと、落ちてきたのは爪ではなく、真っ赤な血だった。 「何をやってる?」 「相棒、信じてたぜ!」  身の丈を優に越す馬鹿でかい剣を持った女が、俺の横に雄々しく立っていた。  無駄にデカイ剣から、血が滴っている。 グッジョブなので親指を突き立てて返しておく。 「どうでもいいが貴様、その無駄な詠唱はやめろ。 下品かつ滑稽だ」 「馬鹿、あれは俺の怒りを引き出すのに必要な詠唱なんだよ。 普段優しい俺が怒りを覚えることで、スーパー“マキ”になるんだ」  俺はからかいながら、隣の女に返す。  女は軽くながしながら、兜を取り外す。 「それと、その……なんだ」 「ん、どうした?」  俺は女が何を言いたいのか知っていて、あえて聞いてみる。 「せ、せぃ……シ、に名前を付けるのはやめろ」  兜を取ったその素顔は、炎のように赤い髪が眩しい、無駄に美人な女だった。 「マキ、貴様は私をからかっていたろう?」 「そんなまさか。 天下の大陸最強剣士“モナ”様をからかうだなんて」  モナの額に青筋が浮かんでいる。  これ以上は命の危険に晒されるのでやめとこう。
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