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小さな田舎町。
その中央で、俺は村人に囲まれながら感謝されている。
感謝された所で、正直嬉しくない。
なぜなら、見渡す限りの男、男、男……華やかな女の姿が一つもないのだ。
「どうもありがとうございました。 では、これが報酬です」
干からびた老人の手から、俺に金貨の入った袋が渡される。
決して多いとは言えない報酬だが、あの程度の下級悪魔ならこれが妥当だろう。
「ど~も、んじゃ俺達は行くんで、さいならぁ」
報酬を貰えば用済みだ。
俺は老人と村人に背中を向けて立ち去る。
村の外に、木にもたれ掛かるようにして立っている女がいた。
今となっては珍しい女で、しかも美人、それでいて大陸最強の剣士であるモナだ。
「ふん、さっさと行くぞ」
いつも鎧を身に纏っているが、戦闘時以外は兜は外している。
燃え盛る炎のような長髪を揺らし、モナは俺に背中を向けて歩き始める。
「たくっ、たまにはお前がこういうメンドイ役をやれよ」
「なんだ、私に文句があるのか?」
無駄に凄い美貌が、邪悪に歪んだ。
文句があるなら殺すぞ、とでも言わんばかりだ。
しかも、俺の実力ではモナに勝つことなど出来ないので、それは冗談ではない。
「暴力女め」
「軟弱男め」
口喧嘩は互角か、いや、モナには一つだけ弱点がある。
「はぁ~、もういい今日は疲れたぜ。 ここいらに村はねぇから、野宿でもしようぜ」
「そうだな、では薪を集めて来い。 あとは食料だ、その辺の森に動物が沢山いるだろうから、捕まえてこい」
自分では何一つやる気が無いところがムカつくが、まぁいい、俺の反撃の布石にしてやる。
「あぁわかった。 モナは休んでいてくれ」
俺の素直な反応に、モナの形のいい眉がつり上がる。
「いやに聞き分けがいいな」
「あぁ、俺は早く今日の疲れを癒すために未来の子供達の姿を見たいんだ。 モナと喧嘩をしてる時間はない」
「貴様っ……その行為は、私から数光年離れた位置でしろ。 そして一々私に報告するな!」
モナの顔が、その髪同様に真っ赤に染まる。
下をうつ向いて、急に声が小さくなる。
「あれぇ、その行為て何かなぁ?」
「そ、その……貴様が、一人で……」
「一人でぇ? どうするのぉ?」
「あの、だからその」
もじもじと必死になっているその姿は、なかなかに愉快である。
モナは、下ネタが大の苦手なのだ。
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