前編◆情けない男と逞しい女

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 そろそろ、そんなやりとりも飽きたので、急にシラフになってみる。 「野宿の準備を始めるか」 「待てっ」  モナが俺を制止する。  モナの表情が真面目なのを見て、俺も辺りを警戒してみる。 「わかるか?」 「あぁ、囲まれてるな」  厄介なことに、森の中で悪魔どもに囲まれてしまったようだ。 「チッ、二人の愛し合う夜を妨害するなんて、万死に値する」 「ふ、ふざけるなぁ。 だ、誰が貴様なんぞと」 『キシャアアアア!』  俺達の会話を遮って、悪魔が飛び出してくる。  虫を媒体にしたらしく、角が生えていたり、足が無数にある悪魔がいた。 「げぇ、きしょいんだよ」  頭上から落ちてきた触角の生えた黒い悪魔を、後方に飛んで回避、そのまま蹴り飛ばしてやる。 「モナぁ、時間を稼げ」 「わかっているさ」  モナは兜を装着し、その背中に備えられている常識破りの剣を引き抜く。 「今宵の晩飯は貴様らだぁ!」  ばかデカイ剣を振り回して、巨大な虫どもの中心で殺戮を行うモナは、戦いの神かなにかに見える。  普通の女は、虫やらなにやらを怖がるものだと聞いたが、俺の目の前で剣を振るう美人は、悠然と立ち向かい、しかも夕飯にするつもりらしい。 「弱い、弱いぞ!」  悪魔どもに囲まれ、姿は見えなくなったが、何故か喜んでるような声だけは聞こえる。 「もっと楽しませてくれないか!」  大剣が振るわれる音とともに、虫の悪魔どもが凪ぎ払われる。  二メートルを越す大剣のその重量は、百キロを優に越す。  そんな規格外の剣を、鍛えているとはいえそれでも細い女が何故扱えるか、それはモナの発動している魔法の効果である。  前衛の剣士は、俺のような攻撃魔法を使うことは苦手としているが、肉体強化系の魔法を得意な場合が多い。  モナが暴れている間に、俺が空中に描いた魔方陣が完成。  即座に発動させる。 「モナ、飛べぇ」  炎の下級魔法、“フレア”が一ヶ所に固まった悪魔ども一直線に走る。  巨大な火の玉が、グロテスクな虫の悪魔を一掃する。  全属性の魔法が使える俺だが、その中でも炎の魔法は最も得意な分野だ。  下級魔法でも、十分な威力を誇る。  と、辺りを見るといつの間にか火の海になっていた。 「森の中で炎の魔法を使うな、馬鹿者」  俺の横に降り立ったモナは、もはや呆れていた。
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