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そろそろ、そんなやりとりも飽きたので、急にシラフになってみる。
「野宿の準備を始めるか」
「待てっ」
モナが俺を制止する。
モナの表情が真面目なのを見て、俺も辺りを警戒してみる。
「わかるか?」
「あぁ、囲まれてるな」
厄介なことに、森の中で悪魔どもに囲まれてしまったようだ。
「チッ、二人の愛し合う夜を妨害するなんて、万死に値する」
「ふ、ふざけるなぁ。 だ、誰が貴様なんぞと」
『キシャアアアア!』
俺達の会話を遮って、悪魔が飛び出してくる。
虫を媒体にしたらしく、角が生えていたり、足が無数にある悪魔がいた。
「げぇ、きしょいんだよ」
頭上から落ちてきた触角の生えた黒い悪魔を、後方に飛んで回避、そのまま蹴り飛ばしてやる。
「モナぁ、時間を稼げ」
「わかっているさ」
モナは兜を装着し、その背中に備えられている常識破りの剣を引き抜く。
「今宵の晩飯は貴様らだぁ!」
ばかデカイ剣を振り回して、巨大な虫どもの中心で殺戮を行うモナは、戦いの神かなにかに見える。
普通の女は、虫やらなにやらを怖がるものだと聞いたが、俺の目の前で剣を振るう美人は、悠然と立ち向かい、しかも夕飯にするつもりらしい。
「弱い、弱いぞ!」
悪魔どもに囲まれ、姿は見えなくなったが、何故か喜んでるような声だけは聞こえる。
「もっと楽しませてくれないか!」
大剣が振るわれる音とともに、虫の悪魔どもが凪ぎ払われる。
二メートルを越す大剣のその重量は、百キロを優に越す。
そんな規格外の剣を、鍛えているとはいえそれでも細い女が何故扱えるか、それはモナの発動している魔法の効果である。
前衛の剣士は、俺のような攻撃魔法を使うことは苦手としているが、肉体強化系の魔法を得意な場合が多い。
モナが暴れている間に、俺が空中に描いた魔方陣が完成。
即座に発動させる。
「モナ、飛べぇ」
炎の下級魔法、“フレア”が一ヶ所に固まった悪魔ども一直線に走る。
巨大な火の玉が、グロテスクな虫の悪魔を一掃する。
全属性の魔法が使える俺だが、その中でも炎の魔法は最も得意な分野だ。
下級魔法でも、十分な威力を誇る。
と、辺りを見るといつの間にか火の海になっていた。
「森の中で炎の魔法を使うな、馬鹿者」
俺の横に降り立ったモナは、もはや呆れていた。
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