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減るもんじゃないのに、無念。
モナの蹴りをくらい、そのまま仰向けに後ろに倒れる。
反転した俺の視界には、無限に広がる星空が――大きな影によって遮られていた。
「ちょっ、あれは!」
すぐさま起き上がる俺と、上空を見上げるモナ。
「“スローンデーモン”か」
モナが上空の、巨大な翼を持つ悪魔の名を口にした。
山のように大きな体躯に、蝙蝠のような翼、山羊の顔を持つ、上級の悪魔だ。
普通は、こんな所にいる悪魔じゃない。
「なんでこんな所に」
「くっ、フフフ」
俺の横にいる人は何故だか凄く嬉しそうだが、戦うことはしない。
俺とモナの二人は、大陸中でもそれなりに高い位置にいるコンビだと自負しているが、それでもバッタリ出逢ったから戦う、なんて訳にはいかない。
上級悪魔を一匹狩るためには、凄腕の魔術士や剣士が数十人で、最高の装備で挑む物なのだ。
こんな所で戦うなんて、それは自殺と同意語だ。
「よし、マキ、撃ち落とせ」
「おっけぇ~、て馬鹿か!」
ノリつっこみ。
こんな状況でもユーモアを忘れない俺、かっくい~。
「前から馬鹿だとは知っていたが、まさか自分の馬鹿さ加減に嫌気がさして自殺志願するとはな!」
「何を言ってる。 私は強敵と戦えるなら死んでも……間違えた。 あの悪魔、これからどこぞの村を襲撃するかもしれぬ、人々の平和を守るためなら、私の命など惜しくない」
うわああぁ!!
助けて、相棒の頭が壊れてるよ。
「いいか、ここでスローンデーモンを倒したとあれば、その噂を聞いたどこぞの村で隠れていた少女も貴様に惚れるぞ」
「くっ、わかった。 ならモナがその胸を――」
そこまで言って、俺の首筋に冷たい感触が、モナの刃だ。
「もういい、ここで私に確実に殺されるか、スローンデーモンと戦って生き延びるか、どっちかだ」
「横暴だ……」
俺は肩を落としながら、杖で空中に魔法陣を描く。
さらば俺の人生。
いやモナと出逢った時点で、俺の人生は終わっていたのかもしれないな。
魔法陣が完成、すかさず上空のスローンデーモンに向けて発動。
炎系中級魔法、“アグニ”の火柱がスローンデーモン目掛けて疾る。
「こうなったら、何がなになんでも生き延びて、少女からモテモテになってやる」
「フフッ、久しぶりの強敵だ……血が、肉が、細胞が、私の全てが疼くよ」
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