第一章 もう一つの恋

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   ここはどこだろう。真っ白な霧がたちこめる、この世界はいったいどこなのだろう。 「悠輝……」  陽耶? 振り向くが、誰もいない。  この世界には、私以外誰もいないような感覚である。 「悠輝」  再びこの世界に響く、陽耶の声。  いったい、どこから? 「陽耶ー!」  叫んで陽耶を呼ぶが、いくら叫んでも陽耶からの返事はない。  突如、前方から突風が吹く。 「うわっ! なに!?」  私は身を庇いながら、その風に耐えた。  しかしその風は段々と強くなり、私はその風にさらわれた。 「うわーー!」  私は叫びながら飛び起きた。 「悠輝!」  目の前には、陽耶が心配そうな表情をしている。 「ああ、夢か」 「大丈夫か?」  私はどうやら、夢を見ていたようだ。どこからが夢でどこからが現実なのか。 「ああ」  私は軽く返事をすると、よかったと陽耶が胸を撫で下ろす。  私はそうだ、陽耶に、キスを……キス。 「はあ!?」 「どうした!?」  陽耶は、私が急に叫んだことで切れ長の目を見開いた。 「どうしたじゃねーよ! てめえ……」  そう言って、私は自分の口元を拭う。  陽耶は理解したようで、真剣な面持ちに変わった。 「悠輝、悪い」 「どういうつもりなんだよ」  私は怒りが先立った。  陽耶を信じてた、私が馬鹿だったのか? 男でも、陽耶だけは違うと思っていた私が、馬鹿だったのか? 「するつもりは、なかったんだ」  つもりはって……魔がさしたってわけか。やっぱり、陽耶も男か。  私は落胆の表情を見せる。 「違う、俺、悠輝が好きなんだ」 「え?」  陽耶は申し訳なさそうに、それでいて、真剣な表情で言葉を続ける。 「俺、ずっと前から。でも、悠輝の過去を知ってるし、ずっと堪えてた。それに……悠輝は、葵のことが本気で好きなのもわかってる。だから」  ところどころで言葉を考えているのか、間を置きながら陽耶は話す。 「ずっと?」  私は無意識的に聞いていた。 「そう、ずっと」 「いつから」  陽耶を見ることができない。部屋の真っ白な壁を見つめながら、陽耶に尋ねる。 「悠輝がここに来て、しばらくして、自分で気付いたんだ。俺は、悠輝と接点が出来る前から、好きだったんだって」  陽耶が真剣な目で、私を見つめているのが視界の隅でわかる。  そんなに見つめるなよ。どうしたらいいのか、分からなくなるじゃんよ。  
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