23人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「ってか腹へらね?」
陽耶が、私の顔を覗き込みながら聞く。
そういえば、私たちはまだ夕飯を食べていない。
「すいた」
陽耶が笑顔を向けているせいか、私の気は少し軽くなった。
そして私は、いつもの調子で陽耶の問いに答える。
「よし、今日はルームサービスとるか」
「まじで!?」
私の表情は一気に明るくなる。
「現金だなー」
陽耶は苦笑しながら、そう言う。
そんな陽耶を「まあ、まあ」となだめながら、ルームサービスで頼む品を選ぶことにした。
一覧表には、いろいろな料理の名前が並んでいる。しかしどうも、名前だけではどんな料理なのかよくわからないものが多い。
「あー! わからねー!」
私は考えるのを止め、万歳の格好で背中から寝台に倒れ込む。
「なにか決めたのか?」
陽耶は私が横になっている寝台に腰掛け、自分の手元にある一覧表を眺めながら私に問う。
「決めるもなにも、いったいどんな料理なのか、名前だけじゃわかんないよ」
そう言うと、陽耶はくすっと笑う。
その陽耶の表情が、まるで馬鹿にされたような気がして、私は不機嫌になった。
その気持ちが陽耶にはわかったらしく、笑っていた顔を真剣の面持ちへと変えた。
「どんなのが食べたい?」
と、陽耶が言う。
「そうだなー、麺類かな」
「麺類か。じゃあパスタでいいか?」
「いいねー」
私はまるで、生クリームのなかにいるような錯覚さえ覚える真っ白な天井を眺めながら、陽耶の問いに答えた。
そして陽耶は、部屋の扉近くの壁に立て付けてあるインターホンのような受話器をとり、それを耳に宛がっている。
私は遠くの方で陽耶の声を聞きながら、また意識が薄れていくのを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!