第一章 もう一つの恋

11/12
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
  「ってか腹へらね?」  陽耶が、私の顔を覗き込みながら聞く。  そういえば、私たちはまだ夕飯を食べていない。 「すいた」  陽耶が笑顔を向けているせいか、私の気は少し軽くなった。  そして私は、いつもの調子で陽耶の問いに答える。 「よし、今日はルームサービスとるか」 「まじで!?」  私の表情は一気に明るくなる。 「現金だなー」  陽耶は苦笑しながら、そう言う。  そんな陽耶を「まあ、まあ」となだめながら、ルームサービスで頼む品を選ぶことにした。  一覧表には、いろいろな料理の名前が並んでいる。しかしどうも、名前だけではどんな料理なのかよくわからないものが多い。 「あー! わからねー!」  私は考えるのを止め、万歳の格好で背中から寝台に倒れ込む。 「なにか決めたのか?」  陽耶は私が横になっている寝台に腰掛け、自分の手元にある一覧表を眺めながら私に問う。 「決めるもなにも、いったいどんな料理なのか、名前だけじゃわかんないよ」  そう言うと、陽耶はくすっと笑う。  その陽耶の表情が、まるで馬鹿にされたような気がして、私は不機嫌になった。  その気持ちが陽耶にはわかったらしく、笑っていた顔を真剣の面持ちへと変えた。 「どんなのが食べたい?」  と、陽耶が言う。 「そうだなー、麺類かな」 「麺類か。じゃあパスタでいいか?」 「いいねー」  私はまるで、生クリームのなかにいるような錯覚さえ覚える真っ白な天井を眺めながら、陽耶の問いに答えた。  そして陽耶は、部屋の扉近くの壁に立て付けてあるインターホンのような受話器をとり、それを耳に宛がっている。  私は遠くの方で陽耶の声を聞きながら、また意識が薄れていくのを感じた。  
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!