第二章 罪悪感と現実

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   いつからだろうか。私が、葵のことを好きになったのは。  そう、あれは、中学時代のことだ。   「聞いた? 葵、彼氏ができたんだって」  郁奈がアイスを頬張りながら、そう言う。  私と郁奈は、コンビニの前の駐車場のタイヤ止めのところに座り込んでいる。  中学二年の暑い夏。葵に、初めての彼氏ができた。 「聞いてる? 葵に……」 「聞こえてる」  私は郁奈の言葉をさえぎる。  それから郁奈の言葉が耳に入ってくることはなく、私はしきりに考えに浸った。  葵に、彼氏が……嘘だろ。  その感情は、哀しいとかいう単純のものではないということだけはわかったが、いったいなぜ、こんな感情が沸いてくるのか訳がわからなかった。 「はっ」  私は気付くと、鼻で笑っていた。 「悠輝?」 「葵に彼氏かー、どんなやつなの?」  私は一切郁奈のことを見ず、目の前の空間を見つめながら、葵を手に入れた奴の情報だけを求めた。 「ほら、あの高校の桔平先輩だよ!」 「桔平? 誰?」  当時女生徒の間で、憧れの存在のとある高校生がいた。  彼は赤毛で、その目に見つめられると、女性なら誰でも落ちてしまうと有名だそうだ。  そういう噂にまったく興味がない私は、郁奈から葵の彼氏だと説明されるまでは、存在すら知らなかった。  そんな奴が、葵の彼氏か。郁奈の話では非の打ち所がないと言うが、信じられない。そんな人間が、この世に存在するのだろうか。  少なくとも、自分の目で確かめるまでは、認めないつもりだった。あんな葵の表情を見るまでは。  
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