始:ご主人は頼りない

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我輩は……ああ、いやいや俺は猫だ。 ついつい大先輩の口調を真似てしまうな。 気を付けなくては、うん。 で、俺は猫は猫でも野良なんかではない。 最近の若い奴は野良の方がワイルドでカッコイイだとか、人間に餌をもらって生きるなんてカッコワルイだとかなまっちょろいことを言う。 いいか。環境というのは時代にあわせて刻々と変わるもの。 その時代の環境に合わせようとせず、斜に構えて生きているやつの方が俺から言わせれば余程カッコワルイね。 今は人間が事実上、生物のトップに立っているのだ。 ならば、それを利用しない手はあるまい。 と、いうかだな。 飼い猫をなめるなよ、野良ども。 こっちはこっちで色々大変なのだ。 特に、俺のように飼い主に恵まれない猫はな。 「にゃおー、どこー?」 噂をすれば、だ。 その飼い主さまが現れなさった。 「あ、いたー」 そして捕獲される。 ああ、せっかく窓際でぬくぬく日向ぼっこをしていたのに。 爪たててやろうか、この野郎。 「にゃー……」 ため息、もといため鳴き声をこぼし、脱力する。 ……野郎、ではないな。 ご主人、女だし。 このご主人に飼われはじめて早五年。 当初は『しょうがっこう』とか言うところに足繁く通っていたが、今は『ちゅうがっこう』へ場所を変更したらしい。 五年。 そう、もう五年もたった。 しかし、ご主人は全く成長する気配がない。 いや、身体は大きくなった。 心が、子供のままなのだ。 大体、俺の名前からしておかしいと思わないか。 にゃおー、だぞ。にゃおー。 ちょっと、いやだいぶ頭が可哀想じゃないと、にゃおーなんて有り得ないだろう。 まあ、そんなことはまだいいんだ。 いや、よくないけどいいということにしておく。 ご主人は、俺がいないと本当に何もできない。 すぐに転ぶし、食事はこぼすし、そしてとにかくすぐに泣く。 だから俺が、いつも側にいてサポートしてやらなくてはならない。 五年。 そう、五年もの間。 ずっと手を焼いてきた。 飼い猫も楽なものじゃない。 いい加減、ご主人には俺がいなくても大丈夫になってほしい。 俺は所詮ペット。 そして、人間ではなく、猫なのだから。 そう。 いつまでも一緒には、いられないんだよ。
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