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泣いた顔を祖母に気付かれないように、洗面所で顔を洗った。
『麻美、目が赤いよ。泣いたのかい?』
『ううん、違う。顔洗う時に石鹸が入っちゃった。痛かったー』
『そう? 大丈夫かい?』
『うん。大丈夫』
アタシは笑って答える。
そんな事よりも、この先も母が迎えに来るんじゃないか? その事が心配だった。
アタシは行かない。決めたんだ。ここで父と祖母と妹と一緒にいる。
アタシは知ってるんだ。父が料理が上手じゃない事を。
でも、母がいなくなってから朝ご飯を慣れない手つきで作ってくれた。
あんまり美味しくなかったけど、嬉しかった。
父が台所に立つ姿を見て早く料理が出来るようになりたいと思った。
父には、母が迎えに来た事は教えない方がいいとアタシは思った。
仕事をして、家事をするだけでも大変なのに、休みの日にはアタシ達と遊んでクタクタになってる父に心配させたくなかった。
アタシは母を許さない。
父と妹はアタシが助けてやる。
何が出来るのかも分からないくせに、漠然とそう思っていた。
アタシはこの日心の中で母とさよならをした。
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