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『いい人だから会ってみなさいよ』
あれから一年が過ぎた頃親戚の叔母さんが父に見合いの話を持ってきた。
『いや、結婚は……。俺は結婚は考えてないんだ。子供と三人でやってくよ』
『そんな事言ったって、女の子なんだよ。母親が必要だよ』
『うん……』
隣の部屋で妹と遊んでると、父と叔母さんのやり取りが聞こえる。
『ところでさ、離婚の方どうなってんの?』
『ん……それが親権でもめてるっていうか、話に応じようとしないんだ』
幾分声を低くして話す二人の言う言葉は、子供のアタシには理解出来なかった。
ただ「離婚」という言葉が出てきているから、父と母の事を話しているんだろうという事は分かる。
そういえば、あれきり母には会っていない。
アタシの事は諦めてくれたんだろうか?
諦めてくれたならいいんだけど。母について行けばあの男がいる。
あの男は嫌いだ。
アタシは妹を見た。
母が家を出て行った時、妹は三才。母の事を覚えているんだろうか?
この間、父が庭で写真を燃やしていた。
母の写真を……。
もう、この家には母の写っている写真は一枚もない。
妹の記憶の中に母の顔ははっきりとあるんだろうか?
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