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それから山口さんは、毎週末うちにやって来るようになった。
一緒に台所で料理を作りながらお喋りをする。
『麻美ちゃん、このレタスをちぎってくれる?』
『うん。こうやればいいの?』
『そうそう。上手いね』
『志帆も手伝う』
『じゃ、志帆ちゃんにはお皿を並べてもらおうかな』
『了解!』
週末は賑やかになる。山口さんは沢山アタシ達と話をしてくれて、楽しい時間を過ごしていた。
みんなで動物園に行ったり、映画を観に行ったり、まわりから見たら本物の家族に見えるだろう。
志帆は山口さんを「ママ」と呼んでいた。
アタシはそう呼べずに「山口さん」と呼んでいた。
山口さんがうちにやって来るようになって半年になった。
一緒に夕食を作っていると、ちょっと緊張した顔で山口さんが口を開いた。
『麻美ちゃん、志帆ちゃん、私あなた達のお母さんになってもいいかな?』
そうだった。山口さんは父のお嫁さんになる、アタシ達の母親になる人だった。
『私に母親が務まるか分からない……でも麻美ちゃんと志帆ちゃんのお母さんになりたい……』
そう言ってアタシ達を見つめた。
『うん、山口さんならOKだよ。アタシ山口さんのこと好き』
この半年で山口さんを知ったアタシはそう答えた。
『志帆も好き』
『あ、ありがとう! ホントにいいの?』
『うん!』
山口さんの目から大粒の涙が零れた。
志帆がティッシュを持ってきて彼女に渡すと、涙を拭いて鼻もかんで、そのあと飛び切りの笑顔で
「幸せだ」と繰り返した。
アタシが嬉しくなって笑ったら、志帆もつられて大声で笑った。
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