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それから二か月後、二人は籍を入れて、山口さんは「小野寺」になった。
新しい家族が誕生した。
アタシもこの日から「お母さん」と呼んだ。
志帆は「ママ」と呼んでいたがアタシは呼べなかった。
「ママ」と呼ぶと思い出す人がいたのと、そう呼ぶとあの人と同じようにいなくなってしまう気がしたから。
『ねぇお母さんはパパとどうやって知り合ったの?』
『あれ? 教えてなかったっけ? パパとは同じ会社だったの。一緒に仕事してたのよ』
『ふーん。パパのどこが好き?』
『ふふっ。誠実なところかな』
少し照れながら母は話す。
父が離婚した事が会社の人達の間で流れた時に、母は残されたアタシ達の事が心配だったと言う。
何か手伝えないかと父に申し出たが、祖母がいた事と、親子三人でやっていくからと言われたそうだ。
それでも時折、アタシ達は大丈夫なのか父に聞いていたという。
そのうち父からもいろんな話が出てくるようになって、いつしか二人でよく会話がされるようになったそうだ。
『そういえばね、パパが麻美が最近卵焼きを作ってくれるんだ。これが形の悪い卵焼きでって、嬉しそうに笑うの』
『パパそんな事言ってたのー?』
『凄く嬉しそうだったのよ』
『うへーっ、パパのやつめ』
『いい親子だなぁって思った。私もそこに入れてもらいたくなってね、パパにプロポーズしたの』
『え! お母さんからしたの?』
『そうよ』
ちょっと恥ずかしそうに言う母の姿が可愛らしかった。
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