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アタシの中学入学の時に初めて家族写真を撮った。
父の友達がやっている写真館で、アタシは中学校の制服を着て、父はスーツ、母と志帆はちょっとおめかしして。
『はい、目線こっちね。んー、表情固いなあ。小野寺お前が一番怖い顔してるぞ! バカみたいな顔して笑ってみ!』
その言葉にみんなが笑い出す。
『パパ、バカみたいな顔だって。やってみて』
『こうか?』
『小野寺、ホントにバカに見えるぞ』
スタジオの中は笑いで包まれた。
今、みんな幸せなんだ。
父の笑顔を見るのがアタシは一番幸せになる。
アタシや志帆よりも父が一番苦労しただろうあの二年間を知っているから。
近所に住む祖母にも助けてもらったが、いつも父が言った。
『麻美、志帆、三人で頑張ろうな。お前達の事はパパがずっと守っていくから』
そこにアタシと志帆を守ってくれる母が来た。
あの二年間も、忘れてしまうくらい幸せ。
この家族写真を居間の一番目に付くところに父が飾った。
『ねぇ、パパとお母さんどうして結婚式しなかったの? そうしたらこの隣に二人の写真も飾れたのに』
『麻美ちゃん、私あなた達のお母さんになれただけでいいの。結婚式やドレスを着るよりも嬉しい事なのよ』
そう言って母はアタシを思い切り抱きしめた。
『ちょっ……苦しいよお母さん!』
『志帆もやってよー』
『よし、次は志帆ちゃん、ぎゅうー』
『あはは! もっとやってー!』
そんな女三人のやり取りを見て父は笑っていた。
父の笑顔がアタシは大好きだ。
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