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学校から帰ると母がいる生活。
嬉しかった。
あの人が出て行ってからいつも帰るのは祖母の家だったから。
それが嫌だったわけじゃないけど、どうしてアタシの家には待っててくれる母親がいないのか、いつも心の隅っこにその想いがあった。
どうして出て行ったのか?
いまだに誰にも聞いてはいないし、誰も教えてくれない。
この先も聞いちゃいけない気がする。
『麻美ちゃん、手を洗ってオヤツにしよう』
居間にいくと母が作ったケーキがあった。
『作ったの?』
『そう! もう朝から頑張っちゃった』
『美味しそう!』
『お姉ちゃん早く食べよう』
志帆はすでに口のまわりにクリームを付けてケーキを頬張っていた。
母親ってこういうものなのかな……。
アタシにはケーキを作ってもらった記憶がない。
学校から帰るとあの人はいつもソファで転がって寝ていた。
父が出張でいない日は晩御飯も買ってきたお弁当だったっけ。
母親らしい事を何かしてもらっただろうか?
思い出せないのは、してもらってないから?
それとも、アタシがあの人の事を忘れようとしているから?
優しかった記憶も少しだけあった。
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