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家から出たはいいが、さて、どうするか。
知り合いにあったらどうするか・・・。
・・・自然体でいいか。
ドアのほうに体を向けて、そんな事を考えていたせいか、背後の気配に少しも気付かなかった。
「あのー・・・」
「うわぁああああああああああ!!」
悲鳴をあげながら体を反転させ、体の回転を利用し、右の拳を相手の鳩尾へめり込ませる。
その際拳には回転をかける。
「へべぇっ!」
変な声をあげて、ソイツ、は地面に倒れ、沈黙した。
・・・しまった、つい本気でやってしまった。
ソイツに視線を落とすと、ピクピク痙攣している。
「ありゃ・・・大丈夫で・・・」
そこまで言って、ソイツが誰なのかを理解した俺は、言葉を詰まらせた。
「武司・・・なんでここにいるんだ」
冷たい声で言う。
その途端、ガバッと起き上がりやがった。
「なんで俺の名前知ってんの!?俺のファン!?なんて名前!?」
なんでこの俺がお前のファンにならなくちゃならないのだ。
あ、俺だってわかってないからか・・・。
・・・面白いこと思いついた。
「初めまして、お兄ちゃんのお友達の武司さんですよね?私、中宮春の妹の、中宮夏って言います」
思った通り、武司は驚いた顔になって、その場で固まっている。
「さっきは殴ってしまってごめんなさい・・・大丈夫でしたか?突然でびっくりしちゃって・・・本当にすみません」
ちょっと哀しげな表情を作り、オロオロとして、深々と頭を下げる。
「い、いや大丈夫。俺のほうこそ、ごめん、いきなり声かけて・・・いや、それより、春に妹がいたなんで驚きだなぁ。聞いたことなかったからなぁ」
頭を下げながら、上手く行った、と小さく微笑んだ。
その笑いをなんとか抑え、顔をあげて柔らかい笑みを浮かべてみる。
「お兄ちゃんはあまり私の事話そうとしないので・・・聞いてないのも仕方ないです」
「あ、そ、そうなんだ・・・」
可愛そうな奴だ。
武司がモテない理由の片鱗が見えた。
女性と話すと、緊張して、ニヤニヤしだす。
容姿は悪くないのに・・・残念な奴だ。
・・・さて、今の内に『中宮夏』の設定を考えておくか。
いろいろこれからのことをグタグダ考えるのは、性にあわないからな。
今はとりあえず、楽しもう。
武司弄りを。
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