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「拓ー」
「……」
いつものこと。
そう自分に言い聞かせるも、不機嫌なのが顔に出ているらしい。
今年高校生になった拓は、遊びに誘っておいて遅刻して来た友人、小太郎にジト目を向けていた。
「言いたいことがいくつか」
「メールの内容の薄さ、三十分の遅刻…ですか」
いつものやりとりといえばいつものやりとりだが、いい加減三十分待たされる身にもなってほしい。
頂上から傾き始めた太陽に照らされ、拓の体は汗が滲んでいた。実に気持ちの良い晴天である。
「まずメール。あれはメールの役割を果たしているのか?」
小太郎から送られてきたメールの内容はこうだ。「遊ぶぞ」
この一言だけ。遊ぶ場所も時間も書かれていない。が、その書かれていない内容が分かってしまうのが小太郎との付き合いの濃さを思わせる。一時に公園というのはこの二人の定石だった。
「いつも言ってるだろ」
「内容を濃くしろと」
台詞を取られてジト目を睨みに変える。小太郎は勘弁してくれとばかりに両手を上げた。
「まあいつものことだろ?気にすんなって」
そう言った小太郎の顔に反省の色は見られない。まったくこっちが勘弁してほしい。
「で、どこに行くんだ?」
溜め息をついて本題に入る。
許してくれたことを察知したのか、小太郎の顔が緩む。そして、聴きなれない言葉を放った。
「ワールドオンライン」
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