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二十年前。
俺は俳優を志し
単身、上京した。
その新生活も
大分軌道に乗った頃。
その日俺は、ちゃぶ台で
飯をかっ喰らっていた。
ほいで
皿も洗わずに、TVを見ていた。
そして、漫才師のいつもの
ギャグにハハッと笑った時だ。
──ヘイ!ヘイッ!
どこからともなく、
そんな声が聞こえた。
ヘリウムガスを
吸った時みたいな声。
俺は、周りを
キョロキョロ見た。
──ココダヨッ!
ソウソウ!
ソノマンマ、シタ!
気味悪かったが、
声の導くまま視点を動かした。
すると、そこには
小指の爪ほどの小さな人がいた。
すっぱだかで、
真っ白い肌が見える。
俺は目をこすった。
もう一度見た。
まだ、いた。
──オイテメッ!
「おっ俺の、こと?」
──ソウダヨッ!
テメ、カ―チャン二
コメツブノコスナテ
ナラワナカッタカ?
「え……?」
「あ、ああ
一応習いましたが?」
混乱していた。
何故か敬語になった。
──ナンデ
ノコスンダバーロー!
それを口火に、
そのちっこいやつは
俺に説教を始めた。
情けないだの
俺は神様なんだから
丁重に扱えだの。
延々、延々と。
途中で、何か
馬鹿らしくなった。
きっと悪い夢だ。
──ダイタイテメェ……
そう喋っている途中
俺はそいつにデコピンをかました。
「ベイッ!」
そう言って、そいつは
綺麗な放物線を描いた。
俺は、ケツ掻いて寝た。
──ユルサネェ!
メヲ、ツブシテヤル!
飛び起きた。
そいつは、
蒸気をあげ震えていた。
そして、
ポンッ と 音をたてた。
ビビった俺は、
反射的に目をつぶった。
心臓がひどく高鳴った。
──パチッ
恐る恐る目を開く。
普通に、見えてる。
ちっさいやつは、
もうどこにもいなかった。
やっぱり、悪い夢だ。
ほっとして、
俺は眠りについた。
そして、現在。
俳優の夢は塵と化し
俺は今、駅構内の
段ボールに住んでいる。
あくまで今思えばだが、
俺は『芽』を潰されたのだろう。
いや、
そうに決まっている。
そうに決まってるんだ。
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