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「生きる気力がない。だからと言って、自ら命を絶つのも面倒だ」と猫さんは言う。
僕の五感が狂ってしまったのか、猫が言葉を話したように思えた。大体、真っ昼間から何を言い出すのかと思えば、猫なのに全ての気力を失ったこいつは不愉快極まりない。
けしからん。誠にけしからんよ、君。
「秋刀魚(さんま)くれ」
「おい、猫! 自然界のバランスを崩すなよ。猫が喋ってしまうと、何かしら不都合なことになる」
「なぁ、秋刀魚くれ」
「これは幻聴に違いない。きっと、疲れているんだ。猫は秋刀魚が好きかもしれないが、言葉で要求してくるはずなど」
「俺に秋刀魚を……」
「シャラップ! おまえはアレか。実はハイテクノロジーなロボットか何かだな。どっきり番組か!? カメラどこ!?」
周囲を見渡すものの、カメラどころか人影一つと見当たらない。僕の目の前に居座って、「秋刀魚くれ」と連呼する変な猫以外には。
哀れな猫も結構なことではあるが、言葉を話しちゃいかんよ君。
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