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気が付くと志狼は不思議な空間にいた。
上下の感覚は鈍いが、
床らしきものに足がついていた。
暑くもないし寒くもない。ただただ広がる闇の空間。
不思議と恐怖はない。
むしろ何かに包まれている安心感がある。
しばらくこの空間を見渡していると、ヒュン!という音がして『外』の情景が映し出される。
(エリィ!!!)
見るとエリィはあの遺産兵器に追い掛け回されていた。
左足を引きずって、左肩に右手を当てていた。
地面に叩き付けられた時に負った傷だろう。
『ひゃあはははは!おお、おお、残念だア!
王子様は運悪く木っ端ミジンだなあ!!』
『シロー…!』
さっきやっと笑顔に戻ったのに、また涙を流している。
(くそう…)
志狼は力なく、膝をついてしまう。
(…ちくしょう、ちくしょう!ちくしょう!!畜生ッツ!!!
何もッ!!!変わってねぇッ!!!あの時とッ!!!!
やっとあの手を掴めそうだったのに!!!)
ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!
志狼は、感覚の薄い床に向かって、拳を叩きつける。あの時も。
もっと手を伸ばしたら届いたかもしれない。
自分も飛び降りてエリィの体を抱いてかばってやれたらあんな大怪我しなかったかもしれない。
「守りたいものを守れるぐらい、強くなれ。」
駄目だ、オヤジ…!
何も守れない!!俺は…弱い…!
どうしようも無く弱い!!
「少年よ…若き騎士よ。何故泣いている…」
「誰だ!…騎士だって!?
何言ってんだ!俺が…泣いている…!?」
どこからともなく、声が聞こえる。
突然の事態に、志狼は叫び返した。
「君の心が…純粋な心が、涙を流しているのを、私は感じることが出来る。
若き騎士よ。何故泣いている…?」
「俺は騎士なんかじゃねぇ…騎士ってのは、護ると決めた人の事を
…カッコよく守るもんだ」
「…」
「俺は…カッコわりィ!最低だッ!あんなに見栄張っといて…このざまだッ!!」
『外』の様子を見るとエリィがついに倒れてしまう。
どんどん迫る遺産兵器。
「エリィッ!!!」
志狼は『外』のヴィジョンに手を伸ばすが、実際には、そこには何もない。
志狼の手は、空を切った。
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