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笑いながら…
笑いながら…なんだっけ?
「いいかげん起きたらどうだ、志狼」
「笑いながら…いいかげん起きたらどうだ志狼…ってあれ?」
呼ばれて意識がはっきりしてくる。
どうやら気絶していたらしい。
「必死に手を伸ばして…そんなに、この父の胸に飛び込んできたいのか?」
「…ありがたく辞退しておくよ」
どうやら夢でしていた動作を現実にしてしまったらしい。
稽古場の壁に『めり込んでいる』自分の体を起こしながら志狼はグチをこぼす。
「しっかし…あででででっ!
…毎朝の事ながら、手加減ってモンを知らないのかよオヤジ…」
言いながら四狼はわき腹のあたりをさする。
「はう…ッツ!!」
鋭い痛みを感じることから察するに、ここを打たれたらしい。ちょっと身悶える。
この志狼と呼ばれた少年は、一見すると華奢に見えるが
その赤を基調とした服の下のその体には、1日2日では到底つかないような見事な筋肉を持っていた。
同年代の者達とケンカをしても、まず負ける事はないだろう。
「ふっ、十分手加減はしている。この御剣 剣十郎57歳。
お前のような小僧に遅れをとるほど、落ちぶれてはおらんわ」
そういうと剣十郎は空を切る音をさせて、木刀を華麗に帯刀する。
57歳といっても本人の言う通り、その肉体は衰えている様子はない。
着ている着物を盛り上げる見事な逆三角形の筋肉。
白髪は少々混ざるものの後退はしていない髪の毛。
そしてなにより、どんな獲物も逃さないような獣を思わせる鋭い目を持っていた。
悔しそうに舌打ちすると、志狼はふと視線を自身の木刀落とす。
「げ」
柄の部分を残して剣先が『熊手』のようにバラバラに裂けていた。
加減されていなかったら、今頃自分はどうなっているのだろう。
毎朝の事ながら、末恐ろしくなる。
「さて今日の早朝稽古はこれまで。さっさと飯を作ってくれ」
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