『第十四話 魔を討つ、聖風のマイト』

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「!」 仁王立ちのまま、微動だにしていない。 ウィンドウに映る彼の表情は、無表情にも近い。 不安など微塵にも感じていない。 (…負けられないっ!) 負けてたまるか。 こんな事で、引き下がっていられない。 「わ…我が手に輝く聖剣よ…!」 『!追加詠唱か…!?』 エリィの呪文に応じて、二連の竜巻が混ざり合い、螺旋回転力を上げていく。 激しくうねり、竜巻は光りの柱に穴を穿っていく。 「大地を穿ち、海を割り、天を切り裂け…っ!!」 トドメとばかりに、ヴォルペガサスの胸部付近に、超圧縮された風の塊が精製される。 「我が剣に…っ!斬れぬ物無しッ!!」! 翼がはためき、風の塊が発射される。 塊は竜巻のレールを走り、最大加速、極限圧縮される。 竜巻を突き破り、放たれた風の塊は、易々と光りの柱を打ち破り、猛黒牙を粉砕するに留まらず、コロシアムの壁面を深々と切裂き、大地に深い溝を穿つ。 「…すげぇ…!」 ヴォルペガサスが放った一撃は、大閃光弓を猛黒牙もろともに吹き飛ばし、コロシアムを大地ごと撃ち抜いた。 底の見えない亀裂は、まるで途方もなく巨大で、鋭利な剣を用いて斬りつけたかのようだった。 「これが…術士のマイトの威力かよ…!」 志狼は本格的な術は、生まれて初めて見た。 どちらかと言えば術者寄りであるユマは、至る所で術を使用しているが、これほどの大規模な破壊は見たことが無い。 剣士には真似できない、広範囲、高威力の破壊力。 『聞こえるか、志狼』 「!ブリットか」 突然、ブリットから通信が入る。 『凄まじいマイトと振動を感知したのだが、無事か。そちらに猛鋼牙のコピー体が向かったが…』 苦笑いしながら、志狼は答える。 「…片付いたよ。凄まじいマイトの反応ってのは、エリィのマイトだろうよ」 『え!?』 『…やはりな』 驚くユマに対して、ブリットは予測していたのか、納得していた。 『ともあれ、ギアアークに戻って来い。全機集合した後に、速やかに撤収するぞ』 「…分かった」 志狼は、巻き上がる土埃のなか、こちらを見失わずに見上げてくるヴォルガイアーを一瞥する。 が、構わずそのまま転進する。 翼を広げ、ヴォルペガサスは元来た方向へと、飛翔した。 「鈴、無事か」 『はいはい、無事ですよっ』 Gウォッチから聞こえる鈴の声は、元気そのものだった。 「回収する。場所は、さっきの所から離れていないか?」 『あー、自力で水衣姉達と合流しますので、お構いなくお先にどうぞ!』 少々心配だったが、今の今まで無事だった事を考えれば、鈴の実力はかなりのものなのだろう。 「分かった。気をつけて合流しろ」 『はい!』 「…さて、と」 飛びながら、志狼は拳を握り締める。
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