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「無事か、テメェ等」
「それはこちらの台詞だ」
猛鋼牙とウォルフルシファーの傍らに降り立つヴォルペガサス。
志狼の方から無事を確認したはずが、呆れ混じりにブリットに切り替えされた。
「無事ですか、三人とも!ヴォルネスさん、違和感や異常はありませんか!?」
『あ、ああ。もう問題ない』
ユマに矢継ぎ早に尋ねられ、ヴォルペガサスは苦笑いで応える。
「すごいや…、あの偽物たおしちゃうなんて!」
賛辞を送る陸丸に、志狼は苦笑いで手をヒラヒラ振った。
「いや、奴らもうお前らと戦って、随分消耗してたからな。動きが鈍ってたよ」
「そんなに甘っちょろい相手なら苦労ねぇよ」
「!拳火か」
音もなく、紅麗と蒼月が3機と合流した。
蒼月の手のひらの上で、鈴がヒラヒラと手を振っているのが見え、志狼はホッと胸をなで下ろした。
「あの偽物…生半可な強さじゃなかったわ。流石は初代、と言ったところかしら」
「…ユマ、2人の状態をチェックしてやってくれ」
「は、はい?」
「動きがぎこちない。どっか故障してるはずだ」
「!」
『あらら、鋭い』
『見抜かれたな、拳火』
「分離した状態で、見抜かれるも何もねぇだろ」
「…ちっ」
蒼月や紅麗の言葉に、拳火は舌打ちした。
「しっかり看てもらえ。…特に、左腕をな」
「!」
後半は小声で、志狼は拳火の左腕に軽く触れた。
「っつ!」
軽く触れただけだというのに、拳火は身を堅くした。
かなり鋭い痛みが走った筈だが、しかし彼は上がりそうになった悲鳴を飲み込んだ。
「何した」
見たところ、蒼月も同じ箇所を損傷している。だが、拳火ほどの負傷はしていない。
その上で、痛みを我慢している。恐らくは、あの水衣に知られたくない事。
もしくは、知られてはならないこと。
拳火が水衣に隠し事をするなど、よほどの事態だ。
「…双龍の真髄を見た」
「!マジか」
「ああ。失敗すると分かってたんだが、追い込まれて咄嗟に使っちまった。…その結果が、このザマだ」
「…それって、ひょっとして…」
「ああ。前に博士がビジョンで言っていた、紫龍の本当の力って奴…あの黒龍の姿形に関係があるんだろうぜ」
『…』
非難めいた拳火の言葉に、紅麗は無言で答える。
拳火同様、紅麗が沈黙を決め込むのは、やはりそれなりの事情があるのだろう。
「そうだな、帰ったら、その辺まとめて話しすっか」
「帰ったら…、か」
拳火は苦笑いした。
彼は今まで、帰還の事を極力考えないようにしていた。
恐らくは無事では済まないだろう、と。決死の覚悟を固めてここまで来た。
しかし、死の寸前まで追い詰められた筈なのに、何故この男の方が、当然の様に後のことまで口に出来るのだろうか。
「…たく…。だからお前といると、負ける気がしねぇんだよ」
ボソリと、拳火は呟く。
カインにあれだけボロボロにされたというのに、何故か敗北感を感じない。
それは恐らく、志狼のその気迫や思考に、自分が強く引かれているからなのだろう。
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