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「…」
「…」
志狼と、カイン。
両者とも無言で進み出る。
「…っ」
自分自身が、決戦に臨む訳じゃないのに。
陸丸は、全身を緊張させていた。張り詰めた空気が痛い。
ゴクリと飲み込んだ生唾の音が、やけに大きく聞こえる。
チラリと周りを見れば、紅麗も蒼月も、ウォルフルシファーも、身動ぎひとつせずに歩を進める両者を見つめている。
ズシンッ ガシュンッ ズシンッ ガシュンッ
一歩、また一歩と、近付くヴォルガイアーと、ヴォルペガサス。
「…入った」
ブリットがポツリと漏らす。
両者ともに、互いの間合いに入り込んだ、その瞬間。
「「りィィィやあああああッ!!」」
大上段から打ち下ろされた、ガイアーブレードとペガスキャリバーが、火花を散らして激突した。
「うわ!?」
「くっ!」
拳火と水衣は、顔を両腕で覆った。
ヴォルペガサス、ヴォルガイアー両機を中心に、地面が砕け、衝撃波が走る。
「なんて奴だ…!」
ブリットが唸る。
ヴォルペガサスも、ヴォルガイアーも、互いの剣撃の威力で、後ろへ数メートルは吹き飛ばされる。
が、両者ともに全く怯まずに、再び間合いを詰め、横薙に剣を振るう。
大気が震え、けたたましく金属の激突音が響き渡る。
「…何で…!?」
「どうした、ユマ」
「何故ヴォルペガサスは、ヴォルガイアーと力が拮抗出来るのですか…!?」
「…」
身の丈を超える大剣である、ガイアーブレードと、せいぜい足から胸までの長さのペガスキャリバー。
見た目の重量感からしても、明らかにヴォルガイアーに分がある。
それなのに、何故。
「左右対称、同じモーションでぶつかり合っているのに…」
「ポイントはそこだ」
「え!?」
三度、衝撃波が撒き散らされる。
ヴォルペガサスとヴォルガイアーの、拳と拳が激突していた。
左右対称の、同じモーション。
結果は、
「やはり…互角!」
両者の後方の地面が砕け、岩が盛り上がる。
「攻撃の最大作用点を、一方が押さえているからだ」
「最大作用点…?」
「例えばパンチなら、踏み込み、腕が伸び切り、腰が入り、力が最大に乗り切った状態…
銃なら、射程距離ギリギリではなく、火薬が弾丸を推し進め、失速するより前…
刀なら、最も刃が対象を滑る、距離や間合い…
術や投擲武器にも、例外なくこれは存在する」
「その攻撃が、最も力の乗った状態、という事ですね」
「そうだ。今、この場合…攻撃の最大作用点を制圧しているのは…」
「そんなん、決まってんだろ…ッ!」
拳火が口を挟む。
「体躯や得物の質量が劣るにも関わらず、それと互角の死闘を演じている…!」
水衣が身を震わせる。
『「ぬぅぅぉおおおおあああああッ!!」』
「ッ!ぬっぐっ!!」
僅かに、拳に押されてヴォルガイアーが体制を崩す。
「そう、ヴォルペガサス…志狼だ…ッ!!」
ブリットは、無意識のうちに拳を強く握り締める。
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