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「…んなわけねぇ…!」
拳を握り締め、拳火はヴォルペガサスを睨み付けた。
あの男が、
御剣志狼が、こんなもので死ぬはずが無い。
「こんなもんで終わりじゃねぇだろ!?なぁおい!!」
拳火は身を乗り出し、思わず叫んだ。
「反撃はどうしたッ!!応えろッ!!御剣志狼ーーーーーーーーッツ!!!」
ドッ
「!」
落下していた白金の鎧が、
「あ…!」
不安一色に彩られていた鈴の顔が、喜色に染まっていく。
「…馬鹿な」
カインは驚愕した。
彼の目の前に、白銀の鎧…ヴォルペガサスが二の足で、確りと立っていたからだ。
「貴様…不死身か…!?」
ありえない。
対象を完全粉砕する、必殺のキング・レオ・ブレイク。
それをよもや、三度受けて生きていられる生物が、この地上に存在しているとは。
「…上手く…いった」
生きている。志狼は、拳を握り締めた。
「…何をした…!?」
「受身を取ったんだよ…」
「受…身!?」
先程の、後方に流れる風を利用したのか。
「風のバリアと、後方へのステップで、流れに乗って突進力を分散させたんだ…!」
『単純だが常套手段だろう…!』
「…馬鹿を言うな…!!」
受身程度で衝撃を打ち消せるほど、キング・レオ・ブレイクは生易しい突進ではない。
極論を言ってしまえば、猛スピードで突っ込んでくる大型車両を相手に、柔術家が受身を取ったところで、果たして無事でいられるだろうか。
突進に合わせた、後方へと飛び退るタイミング、キング・レオ・ブレイクの雷の勢いを相殺する、風の展開方向の決定。
どれをとっても、神がかり的な、いや、動物的な勘が必要になる。
それを、見事にやり遂げた。
「流石に威力を全部は消せなかったけどな…」
身体中が痛みを訴えている。もはやどこを故障したのかは、分からない。
それ以前に、
「…!ぐ、あ」
体力は、とうの昔に、底を尽いている。
『!志狼っ!?』
ヴォルペガサスは、相棒の異変に狼狽する。
志狼の膝が一瞬、カクリと折れる。
(…まずい)
確信がある。
ここで倒れたら、もう立てない。
『志狼ッ!!』
自らの意志に反して、前へと倒れこむ身体。
(このまま倒れてちまえば…、楽になれる、か…)
意識も薄れていく。
何か、仲間たちが叫んでいるのが聞こえる。
が、それら全てが、耳を素通りしてしまう。
耳には入ってくるが、頭に入ってこない。
(もう、疲れた)
そう、このまま横になって、目を瞑って、思う様眠るのだ。
目が覚めたら、
朝食を作って、
稽古をして、
ボロボロの身体を引き摺りながら、
皆と騒がしく朝食を食べて、
何時も通り、
何時も通り、学校へ…
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