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「…カイン」
エリィが、カインの傍らに膝を下ろした。
「…マリア、か…」
「!」
志狼は反射的に、エリィの瞳に視線を向ける。彼女の瞳は、淡い赤になっていた。
エリィがマリアを押さえ込むだけの力を失ったせいか。
それとも、彼女が故意にマリアを表に出したのか。
拳火や水衣、陸丸は、初めて見るエリィの変化に驚き、声も出ない。
「…本当に…マリア、なのか」
「ブリットさん…。お久しぶりですね。
といっても、私の主観では、ほんの少しの間なのですけれど」
「俺も…似たような物だ」
「知っています。私達のせいで、長い間眠りについていたのでしょう?
…辛い思いをさせてしまいましたね」
「断じて貴様達のせいなどではない!貴様を撃ったのは、この俺だぞ!
何故貴様が謝罪する!?」
「あなたを恨んだり、悪く言う人なんていないわ。
私も…、拳華やスイ…陸丸も、あなたを仲間だと思っているもの」
馬鹿な…と呟き、ブリットは顔を手で覆う。
「…すまない…。こんな時、何と言ったらいいのか…分からん」
その頬を涙が伝って、地面に落ちた。
少し目を丸くした後、マリアは優しく微笑んだ。
「…変わったのね。少し驚いちゃいました。きっとあなたの影響ね、ユマさん」
「え?!」
ブリットの傍らで見守っていたユマは、顔を赤らめた。
同じ顔だと言うのに、やはりエリィとは、雰囲気が大分違うなと、ユマは改めて思った。
そしてふと、そんな優しい微笑みに、陰りが差した。
「…こんなに喋りたいことがあるのに…。どうやら、もうタイムリミットみたい」
「っ!」
マリアの視線に倣って見れば、カインの体が、胸から下は既に完全に砕けている。
「ずっと…、この時間が続けばいいのに…」
涙を流すマリアの頬を、カインの残った右手が拭った。
「…いいや…。これでいい。君の言うとおり…、死者は理に従うべきだ…」
彼自身の表情は、極めて穏やかな物だった。
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