『第十五話 剣の継承』

18/24
前へ
/821ページ
次へ
「…カイン」 エリィが、カインの傍らに膝を下ろした。 「…マリア、か…」 「!」 志狼は反射的に、エリィの瞳に視線を向ける。彼女の瞳は、淡い赤になっていた。 エリィがマリアを押さえ込むだけの力を失ったせいか。 それとも、彼女が故意にマリアを表に出したのか。 拳火や水衣、陸丸は、初めて見るエリィの変化に驚き、声も出ない。 「…本当に…マリア、なのか」 「ブリットさん…。お久しぶりですね。  といっても、私の主観では、ほんの少しの間なのですけれど」 「俺も…似たような物だ」 「知っています。私達のせいで、長い間眠りについていたのでしょう?  …辛い思いをさせてしまいましたね」 「断じて貴様達のせいなどではない!貴様を撃ったのは、この俺だぞ!  何故貴様が謝罪する!?」 「あなたを恨んだり、悪く言う人なんていないわ。  私も…、拳華やスイ…陸丸も、あなたを仲間だと思っているもの」 馬鹿な…と呟き、ブリットは顔を手で覆う。 「…すまない…。こんな時、何と言ったらいいのか…分からん」 その頬を涙が伝って、地面に落ちた。 少し目を丸くした後、マリアは優しく微笑んだ。 「…変わったのね。少し驚いちゃいました。きっとあなたの影響ね、ユマさん」 「え?!」 ブリットの傍らで見守っていたユマは、顔を赤らめた。 同じ顔だと言うのに、やはりエリィとは、雰囲気が大分違うなと、ユマは改めて思った。 そしてふと、そんな優しい微笑みに、陰りが差した。 「…こんなに喋りたいことがあるのに…。どうやら、もうタイムリミットみたい」 「っ!」 マリアの視線に倣って見れば、カインの体が、胸から下は既に完全に砕けている。 「ずっと…、この時間が続けばいいのに…」 涙を流すマリアの頬を、カインの残った右手が拭った。 「…いいや…。これでいい。君の言うとおり…、死者は理に従うべきだ…」 彼自身の表情は、極めて穏やかな物だった。
/821ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加