星の宿り・真綿の檻

8/17
前へ
/21ページ
次へ
 白く細い手の平で水を掬い、僕の右目を優しく洗う。  水は冷たくて、とても気持ち良かった。瞼に触れる星垂の手も柔らかくて心地良い。  静かな時間。  このままずっとこの時が続けば……などと思いながら、僕は左目を閉じ、優しい時間に浸った。 「ほら、綺麗になった」  声と共に、右目に湿った温かい何かが触れた。  驚いて左目を開けると、すぐ傍に煌めくサファイアの瞳があった。  星垂は悪戯っぽく笑うと、僕の右目に唇を寄せてきた。 「ほた……」  湿った柔らかい舌の感覚を淡く受け、麻痺しているはずの瞼に熱をもった気がする。じんわりと、熱い。 「やめた方がいい。こんなの。君、病気になってしまうよ」  その時、星垂の碧い瞳に陰が射した。深い哀しみを瞳の奥に沈め、星垂は弱く笑ってみせる。 「平気だよ。病気なんか。……今更」  呟くようにそう言うと、星垂はゆっくりと立ち上がった。  そして、そのまま左足を引きずりながら、この場を離れた。  
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加