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白く細い手の平で水を掬い、僕の右目を優しく洗う。
水は冷たくて、とても気持ち良かった。瞼に触れる星垂の手も柔らかくて心地良い。
静かな時間。
このままずっとこの時が続けば……などと思いながら、僕は左目を閉じ、優しい時間に浸った。
「ほら、綺麗になった」
声と共に、右目に湿った温かい何かが触れた。
驚いて左目を開けると、すぐ傍に煌めくサファイアの瞳があった。
星垂は悪戯っぽく笑うと、僕の右目に唇を寄せてきた。
「ほた……」
湿った柔らかい舌の感覚を淡く受け、麻痺しているはずの瞼に熱をもった気がする。じんわりと、熱い。
「やめた方がいい。こんなの。君、病気になってしまうよ」
その時、星垂の碧い瞳に陰が射した。深い哀しみを瞳の奥に沈め、星垂は弱く笑ってみせる。
「平気だよ。病気なんか。……今更」
呟くようにそう言うと、星垂はゆっくりと立ち上がった。
そして、そのまま左足を引きずりながら、この場を離れた。
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