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「おいっ!タケル!いつからそんなに早く泳げる様になったんだー?秘密特訓でもしたのかよ?」
親友のマナトが、50mプールを平泳ぎで泳ぎきった僕の背中を、バシッと叩きながら笑顔で言った。
そんな風に驚かれるのも無理はない……僕はほんの2日前まで、溺れかけと言っても過言ではない程のみっともない姿で、この50mを泳ぎきるのがやっとだったのだから。
「おーい!タケル?どうしたんだよ、返事もしないで……って、お前めちゃくちゃ顔色悪いぞ!大丈夫か?」
「ああ……ごめん、何かちょっと気分悪いかも……先に帰るわ……」
マナトの顔も見ずにそれだけ言って、くるりと背中を向けて歩き出す。
その背中に、心配しているのだろうマナトの視線が痛いほど向けられているのが分かる。
けれど、僕は「大丈夫」とか「心配するな」とか、彼を安心させる言葉を口にすることは出来そうにない。
その視線に一度も振り返ることなく、足早に更衣室に入ると、カーテンの中に誰もいない事を確認し、自分の身に起きた異変を確かめるかの様に顔の前で手をひらひらさせた。
「……何なんだよ、コレ」
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