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離島にある祖父の家は、言うまでもなくド田舎だった。私は中学に上がった頃から、この島に来る夏休みが苦痛でしょうがない。
中学校のない島では、同い年の子はみんな本土に渡ってしまっていた。
大人の世界に入って世間話に勤しむことも、弟達にまざって島中を駆け回ることも出来ない。
この島では、自分の居場所なんてないのである。
「未来(ミク)ちゃんももうお姉さんなんじゃから手伝わんね」
口やかましく言ってくる親戚の叔母さんも
「言ってやってくださいよ!この子ったら親の言うこと一つも聞きやしないんですから」
調子に乗ってここぞとばかり責めるお母さんも
「大きなったなぁ未来ちゃん。ほれ、伯父さんのお酌をよろしく頼むよ」
酔っ払っては馴れ馴れしく絡んでくる伯父さんも、何もかもが嫌だった。
愛想笑いのし過ぎで頬がひきつりっぱなしだ。どこに行っても、私の心はさざ波が立ったまま。
そんな時は決まって家を飛び出した。お気に入りの場所なら沢山あったのだ。
今日も何とか苛々をかわしつつ、玄関へと急ぐ。
「ああ未来ちゃん。その辺にミヨがいるはずだから餌をあげてきてくれんね」
――捕まってしまった。
「はい」
愛想良く笑って餌を受け取る。誰もが私の心中には気づいていない筈だ。
叔母さんが背を向けた後で愚痴を零すのだから。
「何で余所の子供にこんなこと頼むのよ。私はあんたの子供じゃないっつの」
ぼそぼそと悪態をつきながら靴紐を結ぶ。可愛いミュールやサンダルなんてこの田舎では意味をなさないのだ。
「ミャー」
気配がなくなったと思っていた私は、ビクリと顔を上げる。陰口を聞かれたのではないかという不安感に辺りを見回すが、そこには誰もいなかった。
「脅かさないでよ。猫のくせに」
いつの間にか戸口にいたのは、この家の飼い猫である“ミヨ”だった。
真っ黒猫でも真っ白猫でもなく、美人でも醜く太っているわけでもない。どこにでもいるような黒ブチのある白猫。
それなのにこの家では、これ以上ないくらいに可愛がられていた。
未予(ミヨ)ばあちゃんの命日に現れたから。そんな理由でやれ生まれ変わりだのやれ神々しいなどと溺愛されるに至る。名前もばあちゃんのものをそのまま引き継ぎ、大層に漢字まで当てていた。
“御代”
いづれの帝の御代であったか~~云々のあの御代だ。
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