田舎なんて大嫌い

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    大した広さもない島だが、一人遊びには事欠かなかった。   ちらほらと立ち並ぶ家々の背後には、緑の化け物が腕を伸ばしたような天牙森(テンガモリ)があったし、海辺に行けばゴツゴツの岩場にタイドプールが沢山出来ている。     問題は、弟達やんちゃ連合軍と会わないように気を配るだけ。奴らに出会うと色々面倒なのだ。   遊びの標的にされたり、一人遊びを冷やかされたり。弟という生き物はほとほと嫌になる。家ではまだまだ甘えたの癖に、一歩外に出ると態度が急変するのだ。     私は舗装されていない道を歩きながら、山場に行くか海辺に行くかと迷ってみた。裸足に履いた靴が気持ち悪いが、暑さにはかなわない。   靴下がないぶん僅かに空いた隙間が、歩く度に開閉された。     「どーちーらーにーしーよーうーかーなっ」   人差し指を立てて標的に向かって指し示す。深緑の森か、コバルトブルーの海か。……ううん迷うところだ。     辻道で一人テンションが上がってくる。幼心がよみがえるとはこういうことだろうか。従姉妹のミキやカオリの黄色い声まで聴こえてきそうだ。     「てーんーのーかーみーさー」   「ナー」   「まー……!?」     海から森に指が動く途中、辻道の中央で指が止まってしまった。その指の先には白地に黒ブチの……   「ミヨ!」     え?なんで?いつの間にこんなとこに座ってるの?     神様にうかがいを立てる前に、思わぬ乱入者によって阻まれてしまった。   真っ直ぐ向けられた黄味がかった目に、私は思わずたじろぐ。思い出したかのように時折揺れる尻尾。その先だけが微かに黒い。     「ミヨ!家にいなきゃ駄目でしょ?迷子になっても知らないんだから」     ……ほら、歌でも迷子になるのは猫じゃない?   本来猫は家に居着かないことを知りながらも、伸ばしたままの人差し指で家の方角を指差した。 なだらかな高台の上にあるせいで、もう屋根の瓦しか見えないのだが。     「ナー」     またもや全く動く気がないらしい。飽きもせずに私の顔を見つめ続けている。懐いてもいないくせに。     どうせ暇だからとミヨの前に屈みこむと、ミヨもその視線に合わせて瞳を揺らした。   うん、少しは歩み寄りも必要だと思う。呼んだらついて来る様子を想像してみると、なかなか悪くない気がしてきた。    
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