第一章

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         /3  土がぬかるみ、足取りが重く感じる。  ぱしゃり、と僕の一歩で水溜まりが跳ねて彼女が振り向いた。 「よっ、シャム太。いいとこに来てくれた。こいつら体中泥だらけでさ、雑巾で拭いてたんだ。手伝ってくれよ」  昨日の雨は見事にあがっていた。  僕はため息を一つこぼし、腕まくりをしてしゃがむ野良子に近づく。 「制服が汚れるぞ」 「気をつけてれば大丈夫だ」  そう言う野良子のスカートの裾には若干泥がついていた。  気をつける気はないんだな。 「水道で洗ってやったらいいんじゃないか?」 「いや、そこまで言うこときかないだろう」  これだけ懐いてりゃ大丈夫な気もするが。  水道水はまだ冷たいかな? 「ま、室内で飼ってるわけでもないし、いいか」 「いいから、手伝えよ。雑巾は持ってるか?」 「普通、持ち歩くものではないよね」  野良子はやれやれと呆れたようにため息をつく。  何だその反応は。言っておくが、僕に非はないからな。 「仕方ないな。ほら、新しい雑巾だ」  野良子はポケットから真っ白な雑巾を取り出して差し出す。だから、何でそんなものを複数持ってるのか小一時間問い詰めたいね。  しかし一応お礼を言っておく 「ありがとう」 「いいってことよ。さあ、その雑巾は汚して構わないから、猫たちを綺麗にしてやってくれ」  僕は野良子の隣にしゃがんで泥まみれの猫たちを、どうせまたすぐ汚れるんだろうなと不毛なことを考えながら黙って拭き続けた。  せめてバケツに水くらい用意しておいて欲しかったね。 「そういうのは気づいた人間がやるもんだぞ」 「じゃあ気づかなかったことにしよう」 「仕方ないな。ちょっと待ってろ。今汲んできてやる」  別に無理しなくてもいいんだが、野良子は意気揚々と狐でも狩りに行くかのように水を汲みに行ってしまった。  仕方ない、僕はこいつらを拭く作業に戻ろう。 「何してるの?」 「猫拭いてんだよ、アンタがやれっていったんだろ」 「言ってないけど」  野良子の声じゃない。  振り返ると、クラスメートの女子が不審そうな目で僕の様子を眺めていた。 「何でそんなことしてるの? 誰に言われたの?」  さすがクラス委員長。  クラスメートの動向でも纏めてレポートでも提出するつもりだろうか。  
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