第一章

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  「おい、水汲んで来たならこっちよこせよ。雑巾も手も泥まみれだ。ついでに猫も」  野良子は言葉一つ発することなく、最大限に迂回しながら僕のもとにやってきた。  バケツの中に雑巾を入れて汚れを落とす。 「ねえ」  委員長が声をかけてきた。  いや、別に無視していたわけじゃないよ? 「私も手伝っていいかしら?」  僕ではなく、野良子に訊ねているらしい。  それを理解しているのかいないのか、野良子は僕の顔を不思議な瞳で見上げていた。  すまんがそのアイコンタクトを理解するには打ち合わせ不足だ。 「貴女にきいているのよ」 「は、はい。えっと、大丈夫です。手も制服も汚れますし、この……この人? この男が手伝ってくれてるので、大丈夫です」  だから、僕の扱いにもっと気を遣う気はないのかね。  委員長はくすくすと微笑ましい光景を眺めるように笑う。 「そ。じゃあ大丈夫ね。頑張って」 「はい……頑張ります」  野良子は最後まで委員長と目を合わせようとしなかった。  しかし委員長は気を悪くした様子もなく、一礼して去っていく。  やれやれ、明日が怖いな。 「で、何の真似だったんだ?」 「おいシャム太、全然綺麗になってないじゃないか」 「だから綺麗にするには風呂にでも入れないと……いや、そうじゃなくてだな」 「変わってるっていいたいのか?」 「散々言ってる気がするけど」  野良子は優しく丁寧に猫の汚れを落としていく。  そうしながらぽつりと呟いた。 「姉だ」  びっくりだ。 「って言ったら驚くか?」 「違うのか?」 「違う」  びっくりを返せ。 「友達のお姉さん」 「委員長が?」 「そう。……委員長?」 「ああ、僕のクラスの委員長なんだ」 「そうか。そう、あの人は俺の友達のお姉さんなんだ」  まあ、別に驚くようなことじゃない。  妹がいるって生徒はうちのクラスだけでも少ない割合じゃないだろう。 「それで?」 「これ、これ以上綺麗にはならないな」 「だからシャワーと石鹸で……委員長とあまりいい関係じゃないのか?」 「……いいや。向こうは知らないんじゃないか、俺のこと」  なんだかややこしい話になるんだろうか。  聞くのやめようかな……。 「無理して話さなくたっていいけど」 「聞いてくれ」 「……仰せのままに」  
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