第一章

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   猫も拭き終わったし、することが無くなったな。 「あの三毛猫さ」  野良子が指差す。僕が一番最初に見つけた猫だ。 「アイツが一番お気に入りだった猫なんだ」 「へえ」 「それだけ」 「アンタの思い出話にはあまり興味がないんだけど」 「ごめん……なさい」  僕は立ち上がって骨をぱきぱき鳴らす。  ずっとしゃがんでいたから疲れたな。  することもないし帰るか。 「僕はもう帰るけど」 「俺も帰るよ」  少し意外だった。  またここに残るのかと思ったのに。 「じゃあ、行くか」 「ああ、行こう。シャム太」  僕と野良子はぬかるみを踏み締めながら、汚れたズボンとスカートのままその場を後にする。  特に会話があったわけでもなく、校門を出て最初の分かれ道で僕らは別れ、それぞれの帰路についた。  
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