第一章

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   戻ろうとしたところで、それは偶然風のように、缶詰を二つ携えた少女とばったり遭遇してしまった。  重ね重ね言わせてもらう。偶然だ。 「あれ、一つ足りなかったか?」  少女は僕の顔を見るなりそう言った。  携えた猫缶は二つ。ここにいる猫は白と黒の一、二……ああ、僕はツッコムべきか迷って、 「いたっ」  彼女の額を軽く小突いた。 「元気な野良猫だな」  額をさすりつつ笑いながらそう言って、少女は子猫たちのもとにしゃがみ込む。  奴らはにゃあにゃあと鳴きながら、彼女が携えるブツをねだりはじめた。 「何やってるんだ?」  彼女が訊ねた。  僕にだろうか、子猫たちにだろうか、それとも見えない何かとか? 「お前しかいないだろう」  苦笑しながらこちらを振り向く。 「校舎の片隅で野良猫に餌をあげる不思議な女子生徒を観察中」 「それって犯罪者みたいだな」  確かに変態っぽいな。  いや余計なお世話だ。 「いつもこんなことしてんの?」  僕が訊ねる。 「お前の観察日記を見れば?」  少女は皮肉気にそう答える。  残念だが観察は今日から始めたんだ。 「いつもじゃない。今日たまたま」 「にしては、懐いてるようだけど」 「本当だって。いつもこんなことしてたら変な子だと思われるだろう?」  すまん、今日だけでも充分変な子に見えてしまう。  しかし、それが真実なら僕は本当に偶然その現場を見れたらしい。 「お前はいつも観察してるのか?」 「誰を」 「ねこ」 「いいや」 「俺?」 「ストーカーじゃない」 「変な子?」 「自覚があるのか。それも違う、滅多にないだろそのカテゴリー。つーか、観察なんかしてない」  少女は不思議そうに僕を見上げる。同じ目で見返してやりたいね。 「……変なの」 「アンタに言われたくないな」  少女は無視して猫に餌をやる作業に戻った。  どうしよう……帰ろうかな。 「お前何年生?」  おう、話かけられてしまった。 「三年」 「俺と同じだな」 「へえ」 「ごめん。嘘だ。本当は一年生」  随分とくだけた後輩だな。構わないけど。 「名前は?」 「三毛猫シャム太」 「お前変わった名前だなー」  まったくだ。そんな人物がいたら是非会って名刺の一枚でも貰いたいね。 「アンタは?」 「野良猫野良夫」 「野良夫かよ」 「野良子」  まあ、何でもいいけどさ。  僕は少女の隣にしゃがみ込んだ。  
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