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戻ろうとしたところで、それは偶然風のように、缶詰を二つ携えた少女とばったり遭遇してしまった。
重ね重ね言わせてもらう。偶然だ。
「あれ、一つ足りなかったか?」
少女は僕の顔を見るなりそう言った。
携えた猫缶は二つ。ここにいる猫は白と黒の一、二……ああ、僕はツッコムべきか迷って、
「いたっ」
彼女の額を軽く小突いた。
「元気な野良猫だな」
額をさすりつつ笑いながらそう言って、少女は子猫たちのもとにしゃがみ込む。
奴らはにゃあにゃあと鳴きながら、彼女が携えるブツをねだりはじめた。
「何やってるんだ?」
彼女が訊ねた。
僕にだろうか、子猫たちにだろうか、それとも見えない何かとか?
「お前しかいないだろう」
苦笑しながらこちらを振り向く。
「校舎の片隅で野良猫に餌をあげる不思議な女子生徒を観察中」
「それって犯罪者みたいだな」
確かに変態っぽいな。
いや余計なお世話だ。
「いつもこんなことしてんの?」
僕が訊ねる。
「お前の観察日記を見れば?」
少女は皮肉気にそう答える。
残念だが観察は今日から始めたんだ。
「いつもじゃない。今日たまたま」
「にしては、懐いてるようだけど」
「本当だって。いつもこんなことしてたら変な子だと思われるだろう?」
すまん、今日だけでも充分変な子に見えてしまう。
しかし、それが真実なら僕は本当に偶然その現場を見れたらしい。
「お前はいつも観察してるのか?」
「誰を」
「ねこ」
「いいや」
「俺?」
「ストーカーじゃない」
「変な子?」
「自覚があるのか。それも違う、滅多にないだろそのカテゴリー。つーか、観察なんかしてない」
少女は不思議そうに僕を見上げる。同じ目で見返してやりたいね。
「……変なの」
「アンタに言われたくないな」
少女は無視して猫に餌をやる作業に戻った。
どうしよう……帰ろうかな。
「お前何年生?」
おう、話かけられてしまった。
「三年」
「俺と同じだな」
「へえ」
「ごめん。嘘だ。本当は一年生」
随分とくだけた後輩だな。構わないけど。
「名前は?」
「三毛猫シャム太」
「お前変わった名前だなー」
まったくだ。そんな人物がいたら是非会って名刺の一枚でも貰いたいね。
「アンタは?」
「野良猫野良夫」
「野良夫かよ」
「野良子」
まあ、何でもいいけどさ。
僕は少女の隣にしゃがみ込んだ。
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