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「さて、帰るかな」
そう宣言して野良子が立ち上がる。
「いったい何しに来たんだよ」
「お前に言われたくないな。シャム太こそ何しに来たんだよ」
校舎の片隅で猫と一緒に座り込む少女が気になって来たとは口が裂けても言えないね。
「散歩だ」
「じゃあ俺も」
野良子は薄く微笑んで、身を翻す。
長い髪が未だしゃがんでいた僕の目の前をふわりと踊る。
本当に帰る気らしい。
「もしかして、僕がいたからか?」
「は?」
野良子は振り返って、目を丸くする。
「邪魔だった? なんだったら、僕がこの場から去るけど」
「ああ、なんだそっちか。馬鹿、そんなんじゃないって」
呆れたように微笑むと、野良子は今度こそ本当に去っていった。
残された僕はとりあえず猫缶の空き缶を拾いあげる。
ゴミくらい持ち帰れっつーの。
二匹の猫が哀れむようににゃあと鳴く。
ため息をつきながら、僕はその背中を撫でた。
いや、何のため息だ?
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