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さて、僕だって度々その場所を訪れるほど暇じゃない。
遊びだとか、勉強だとか、やることはいろいろあるわけだ。
「お前、また来たのか」
「おう。アンタもな」
だから、その日はたまたまそこに行ってみただけだ。そう、たまたま。
ほら、たまには顔ださないと猫に顔を忘れられるかもしれないだろ? 何の損もないけど。
「雨の日だってのにご苦労様だな」
「お前もな」
呆れたように野良子は微笑む。
「毎日かかさず来なくってもいいだろうに」
おいおい、人を暇人みたいに言うな。
「それとも、本当に野良猫なのか?」
「どちらかと言えば飼い猫かな。温室育ちの」
家が裕福なわけじゃないが、普通に生活出来てることを不幸に思ったことはない。
少なくとも、誰かが雨の日に傘をさしてまで餌を持ってこなくとも、朝晩の飯が出るのだから、ここの猫よりかは幸せなんだろう。
いや、自分の尺度で計るのはよそう。
つまり、ここの猫よりは空腹に困らない、かな。
「お前変わってるな。猫の価値観に気を使う奴なんてなかなかいないぞ」
「差別はあんまりしない主義なんだ」
「ああ、だから俺と仲良くしてくれるのか」
仲良くなんかした覚えはない。
それに差別がどうしたって?
「ほら、俺って変わってるだろ?」
「とっても」
「お前もな」
「肯定されたからって怒るなよ」
「うっさい」
言葉とは裏腹に、野良子は楽しそうに笑っていた。
それは何て言うか、普通の女の子が普通に浮かべる笑顔と何ら変わりはなかった。
どう表せばいいだろう。
わかりやすく言えば、可愛かった。
「しかし、猫たちもこんな学校の片隅を堂々と闊歩して、まるで我が物顔だな」
僕は勝手に傘の下で雨宿りする三毛猫を見下ろしながら、そう呟いた。
「まあ、猫が勘違いするような場所ってことだろ」
彼女が答える。言っている意味はよくわからなかった。
「お前、友達とかいないのか?」
「唐突だな。しかも不躾だな」
傘を少し上げて僕の方に視線を向ける。
「いや、だって、こんなとこに来るくらいだしさ」
「いなかったらこんなとこに来ないで友達探しにもっと人の大勢いる所に行くって」
「それが出来ないから友達がいないんじゃないか?」
「何の話だ」
「一般論だ」
「そうか」
「あ、俺もいるからな友達」
「訊いてないって」
「いや、一応。変に気を遣うなってこと」
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