第一章

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   雨も降っているし、早めに立ち去ろうか。  しかし、これじゃ本当にただの暇人だな。  僕がその場から立ち去る仕種を見せると、野良子が呼び止める。 「なあ、シャム太」 「なんだ、野良子」  立ち止まって振り返る。 「お前はどうやって友達を作った?」 「……は?」 「いや、一般論を聞いておこうとな」 「友達居るんだろ?」 「ああ、居るよ」 「ふむ」  少し考えてみたが、うまい言葉が見つからない。  どうやってと言われても、話しているうちに自然に友達になったり、そもそも友達だと確信した瞬間などないわけで、今でさえもそれはわからない。  まあ、中にはわかりやすいキッカケがあった友達もいるかもしれないが、それは強いて言うなら“どうやって”ではなく“どうあって”だ。方法ではなく過程だろう。 「変な質問だったな。忘れてくれ」  僕が悩んでいることを察して、野良子は質問を取り消した。 「帰るんだろ? 引き止めて悪かった」 「アンタはもう少しいるのか?」 「いいや」  野良子は視線を外して、僕との距離を傘で遮る。 「少しじゃない。ずっとだ」  雨の冷たさが、寒気のようなものに変わって僕の体温を下げていた。 「冗談だ。じゃあな、シャム太」  僕は何となくその場に留まりたい気持ちになったが、“そこに留まる方法”を知らなかった。  僕が去るのを察して、足元の三毛猫は彼女の傘の下に移動する。  雨音が僕の足音を奪う。  彼女は振り向かず、僕は立ち止まらず。  雨音に混じって、なき声が聞こえたような気がしたのは、気のせいだったろうか。  僕を呼び止めるかのような、凛とか細い野良猫のなき声が。  
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