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「この声……。佐倉?」
「うん。あいつがいるせいで手を焼いているんだ。連中、何故だかわからないけど、あいつの命令は聞くみたいでさ。ひょっとしたら、まだ完全には自我を失くしていないのかもしれない」
それか、失う一歩手前か。硅は周囲に気を配りながら細剣を拾い上げた。
「どうして佐倉だけ変化がないんだ?」前を見据えたまま、壱伊。
「さぁ。それを言うなら僕達だって」
「俺達が普通なのは、ここが魔界だからだろ? 俺達はとりあえず魔族って設定なんだし」
「佐倉は違う。もし、本当にここがそういう場所なら、佐倉もああなってなきゃいけないはずだろ」
「だから、おかしいって言ってんだよ」
と、壱伊は苛立たしげに返した。久世は冷静に続ける。
「ここが魔界というのは市東先生がそう言っているだけで、本当は違うのかもしれない。……もしそうなら、僕達と佐倉が普通なのは共通する何かがあるからだと考えるのが自然だ」
「何かって?」
背を合わせる二人のもとへやってきて、硅も同様に背中を合わせる。
「それを調べる時間があると思う?」
「……ですよね」
自分達と佐倉の共通点。それがこの奇妙な世界で自我を失わずにいられる要因である可能性は高い。だが、それは一体何なのか。
襲い来る刃の群れを身を翻してかわし、一人の剣を受け止める。そうしながらも、そのことが頭から離れなかった。この世界には、法則めいたものがある気がしてならない。
「なぁ、硅! こいつら、さっきより強くなってないか?」
大きく大剣を振り、壱伊は叫ぶように言った。
息つく間もなく攻めてくる刃を辛うじて払いながら硅は頷く。確かに、先ほどから敵の攻撃力やスピードが上がっている気がする。
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