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硅は前を向いたまま強く遮った。が、そうしながらも胸の奥がじんわりと温かくなり、不覚にも涙が滲んだ。慌てて目元を拭い、取り繕うようにいたずらっぽく微笑むと、
「ところで、イチ。俺『ら』って? イチと誰のこと?」
不意打ちの問いかけに、壱伊はギクリと頬を引きつらせた。
「そ、そりゃー、お前……。俺と……」
「うん。イチと?」
面白がって、硅は素知らぬふりで聞き返す。ゴニョゴニョと口ごもる壱伊の顔を覗き込んでみたが、ぎこちなくそっぽを向かれてしまった。
「その……。いいじゃねーか、誰だって。み、皆だよ、皆。俺以外の、お前に関わってる奴、皆……」
「ふーん」
ニヤニヤして硅が答える。
「……なんだよ」
「イチってさ、何だかんだ言って久世のこと好きだよね」
「馬鹿言え」
「素直じゃないなぁ」
言って、硅はクスクスと笑った。
「んなことより! これからどうするよ。お前の話から考えると、普通に移動できそうにねーってことだよな」
「多分ね。でも、ここは僕がいたトコと違って橋だし。向こう側に行けば何か……」
「向こう側、か」
溜め息混じりに壱伊は呟いた。
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