混戦―闘争か逃走か―分岐点での選択とパラダイムシフトの可能性

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「……な、なに言ってんだよ。俺はそこまでアホじゃねー」  引きつった笑みを浮かべてそう話す彼の声は、微かに震えていた。どうやら図星のようだ。やれやれと小さく溜め息をつき、硅はホール内を歩き出した。  見えたものに意識を集中すればそこに行ける。だが、硅が二つ目の橋を見た時にはそれが無かった。つまり、行き来できる場所は決まっているということだ。  ならば、このホールの中にはその扉となる何かがまだあるはず。硅はそれを探すことにした。  相変わらず真っ白な空間だ。見上げてみたが、天井付近の観覧席には誰もいない。 「久世と宮村は大丈夫かな」 「さぁな。久世はともかく宮村が心配だよ、俺は」 「僕は両方心配だけどなー」 「あの時代劇マニアは小狡い手を使っていくらでも生き延びるだろ。でも、宮村はなぁ……」  言って、壱伊は眉間に皺を寄せた。その言葉に硅は小首を傾げる。 「時代劇マニア?」  確かに、ここに来てからの彼は日本刀を携えそれっぽいことを口走っていたが。すると壱伊は眉間に皺を寄せたまま、 「結構前に、俺あいつの部屋に突撃したんだわ」 「はぁ」 「で、あいつが飲み物取りに行ってる隙に色々物色したわけ」 「何してんの!?」  呆れ果て、硅は思わず大声を上げた。それを片手を上げて制し、壱伊は続ける。 「まぁ、聞けって。俺だって誰の家でもそういうことしてるわけじゃねーよ。だって気になるだろ? あの仏頂面がどんな趣味してるか」 「趣味って、つまり女の子の……だよね」 「他に何がある」  断言され、硅は深い溜め息を吐いた。全く悪びれていない。  
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