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「あ、あぁ。俺も、ワリィ。勝手に中見ちまって」
「……え?」
安達の目が鋭く光った気がして、慌てて壱伊は両手を振って弁解した。
「や、ほんのちょーっとな。お前、それ名前とか書いておかねーとダメだぞ? 誰のだかわからなかったから、俺は仕方なく」
「……うん。そ、そうだね。そうするよ」
もう涼しい季節だというのに、額に汗を浮かべている。
安達はポケットの手帳を押さえながら、おどおどと後退った。
その様子に、本当に悪いことをしたと思い、壱伊はもう一度詫びようと一歩踏み出した。
「なぁ、あだ……」
「こんな所で、何してるんだ?お前」
突然、背後で声がした。
「うわぁっ!!」
思いがけない出来事に、壱伊は飛び上がった。
とっさに振り向くと、冷めた目をしたもう一人の友人、久世玲(アキラ)がそこにいた。
「図書室では静かに」
「く、久世。お前、なんでここに……。用事があるんじゃなかったのか?」
「だから、用事。書庫の整理の手伝い、頼まれたんだ」
「お前はなんでも屋か。まったく……昼休みだっつーのに、ご苦労なこった」
「人手が足りないって言うんだから、仕方ない。放課後は部活あるし」
一気に気が抜けてしまった壱伊は、深い溜め息を吐きながらしゃがみ込んでしまった。
「お前こそ何してるんだ? 図書室なんて柄じゃないだろ」
「うるせーな。俺はな、今、安達と……」
「安達? どこに」
「あ?」
久世の言葉に、壱伊は顔を上げた。見回してみたが、誰もいない。
どうやら、久世の登場をいいことに、逃げ出したようだ。
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