混戦―闘争か逃走か―分岐点での選択とパラダイムシフトの可能性

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 キッパリとそう言い、硅はまた歩き出した。 「歴史ものかぁ。今度ちょっと借りてみようかな」 「俺は漫画の方がいい。お前らよく読むよなー」 「イチは文字に酔うんだっけ」 「そ。その上眠くなる」 「佐倉も同じようなこと言ってた」 「ふーん」 「でも、読めるようになりたいんだって」 「へぇ、意外だな」 「矢野さんのために」 「…………」  硅はくるりと振り返って壱伊を見た。その時、彼の向こう側の壁が変化していることに気がついた。何かが掛けられている。 「あれ?」 「どうした?」  壱伊の側を通り過ぎ、壁に駆け寄る。  それは白黒の切り絵だった。剣を持った長い髪の少女が魔物らしい獣達に囲まれている。ハッとして、硅はすぐに後ろを向いた。 「イチ! この絵、さっきまで無かった! 目を逸らして。あんまり見たら飛ばされる!」  硅の忠告に従い、壱伊は俯きながら駆けてきた。傍らに来ると、彼と同様に後ろを向く。 「で、どうするよ」 「同時に振り向こう。僕が合図する」 「オッケー」  髪の長い少女。おそらくあれは久世が扮したイゥリピアだろう。  息を整え、硅は「いっせーの、で!」と叫んだ。そして、同時に振り返る。  黒い額縁の中の少女と獣を凝視した瞬間。  ブン、と目の前を何かがよぎった。とっさに身を翻し、硅はレイピアを引き抜く。 「あっぶなー!」 「崎坂!? 一体、どこから……」  久世の声が耳に届き、硅は振り向いて微笑んだ。 「すごいでしょ。瞬間移動してきたんだ」 「俺もいるぞ、お姫様」  
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