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「あの黒い風か? なにあれ、お前出したの?」
「多分……」
すると、壱伊はパアッと表情を輝かせ、
「マジで!? 硅、お前すげーじゃん!!」
「確かに、凄いね。これも魔王の力ってやつなのかな」
肩に流れる長い黒髪を片手で払い、久世もやってきた。硅は戸惑って自分の手の平を見つめる。
「でも、どうやって出したかわからないんだ。ただ必死で、無我夢中で……」
「いよいよ人間離れしてきたね」
「僕、元に戻れるのかなぁ。ちょっと心配になってきた」
「まぁ、大丈夫だよ。きっと」
クスクス笑って久世が答える。が、そんな受け答えで安心できるわけがない。硅は小さく息を吐き出した。
「早く帰りたいなぁ」
「なら、とっとと決着つけねーとな」
と、壱伊は剣を構え直す。敵方は既に態勢を整えつつあった。自我を失った集団にしては統率がとれている。硅は小首を傾げた。
「なんか、妙に動きが良いよね」
「指揮官がいるんだよ。厄介な、ね」
と、久世。
「厄介な指揮官?」
「あれだろ」
短く言って壱伊は群れの向こうを指差した。薄闇の中に人影が見える。耳を澄ますと微かに聞き覚えのある声が聴こえてきた。思わず、息を呑む。
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