混戦―闘争か逃走か―分岐点での選択とパラダイムシフトの可能性

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 だが、それまでもつだろうか。振り続けている右腕は限界に近かった。  肩で大きく息をしながら相手を睨みつける。額から汗が大量に流れ、顎を伝って床に滴った。だが、敵はお構いなしに攻めてくる。  もちろん彼らにも肉体の限界はある。しかし、彼らは『攻める』以外の選択肢は持っていないように思えた。  力任せのひと振りを身を引いてかわす。その時、一瞬目眩を覚えて硅はよろめいた。と、同時に複数の声が重なって飛んできた。 「崎坂!!」 「行ったぞ! 二人ともよけろ!!」 「全員壁際に寄れ! 退避だ!!」  ふわりと身体を受け止められ、硅は反射的に振り向いた。すぐ近くに久世の顔がある。それはやがて陰り、瞬く間に視界は闇に覆われた。  直後に壱伊の怒声が響く。 「馬鹿! 何やってんだ! お前らが一網打尽されてどうすんだよ!!」 「そ……んなこと言われたって……」  暗幕の重さにしゃがみ込み、硅はもがきながら苦しげに言った。 「崎坂」  久世の声が聞こえてきたかと思うと、突然ボフッと何かを被せられた。 「な……」 「まず、君だけ外に出て」  声を潜めて久世はそう続けた。 「どういうこと?」 「いいから」  意味が全くわからないが、まごついている暇はない。覚悟を決め、硅は身を屈めて走り出した。  やがて光が見えて暗幕から抜け出す。すると、同時に後ろから鋭い声がした。 「姫だ! 追え!!」 「姫?」  
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