混戦―闘争か逃走か―分岐点での選択とパラダイムシフトの可能性

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 サラリと黒髪が揺れ、硅は自分がカツラを被っていることに気がついた。なるほど、これは――。  察して、硅は駆け出した。ツノが邪魔でカツラがうまくはまらない。片手で押さえながら、走る。佐倉を除く残党全員が鬼のような形相で彼を追う。  硅と久世は背格好が似ている。そう、壱伊は言っていた。そして今、二人は同じような黒い衣装を身につけている。追っ手の連中が見間違えても無理はない。正気を失っているのなら、尚更だろう。  充分に敵を引きつけ、硅は急停止した。一気に四方を囲まれる。直後、佐倉の慌てた声がこだました。 「待て! 違う! そいつは――」 「残念だったね」  ニヤリと笑い、呟く。硅は剣を握り締めると腰を落とし、勢いをつけて大きく一回転した。と、同時に風が走る。黒い一閃が全ての薔薇を散らし、舞い上げた。  赤い花弁が闇に呑まれて溶ける。その頃には床に伏した彼らも消え去っていた。  息を整え、硅は佐倉の方に目を向ける。あちらもまた、緊迫していた。  暗幕から突き出した切っ先を間一髪のところでかわし、佐倉は後ろに飛びすさった。ややして、暗幕の中から久世がゆっくりと現れる。そして、チッと舌打ちをすると、  「……はずしたか」  目が本気だ。  
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