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佐倉は激昂した。目を剥いて久世を睨み、大きく肩を上下させている。しかし、久世は無表情を崩さず平然と尋ねた。
「どうしたの。いきなり取り乱して。君にとっては日常茶飯事の、特に騒ぐほどのことじゃないんだろ?」
「テメーには関係ねーだろが!! あいつのことなんか……」
「誰のこと?」
「あ?」
「僕は『あの人』としか言っていない。君は一体誰のことだと思ってそんなにキレてるの?」
「……てめぇ」
悔しげに言って、佐倉は更に強く久世を睨みつけた。すると、硅の側まで戻ってきた壱伊が楽しそうに囁いた。
「うっわ。久世の奴、相変わらず性格わっる!!」
「乗るかな、佐倉」
小声で硅は返した。彼の挑発に、である。
「乗るだろ」
壱伊は断言した。
「言い切るね」
「あいつの挑発は耐性がねーとキツいからな」
「あー……確かに。いつも聞き慣れてるイチですら簡単に乗っちゃうもんね」
「ちげーよ。俺はあいつの顔を立てて乗ってやってんの。演技なの、全部」
「ふーん」
対峙する二人を眺めながら硅は生返事で答えた。久世の挑発を受ける時の壱伊は、いつだって本気だったはずだが。しかし、そこはあえて突っ込まないことにした。
硅はそっと佐倉に目を移す。向こうにいる彼もまた、久世を相手に余裕を無くしているように見えた。
「佐倉、前に言ってたんだ」
「何を?」
「……久世の目が怖いって」
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