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硅の言葉に、壱伊は改めて二人を見た。そして短く呟く。
「目、ねぇ……」
「久世の目、お兄さんに似てるんだって」
「あぁ。それじゃあ、あいつが怖がってんのは久世じゃなくて……」
察しが早い。同意して硅は頷いた。
「うん。佐倉が怖がってるのは、お兄さんだよ」
佐倉は、久世に兄の面影を重ねている。いわば脅威と憧れの対象だ。
「だけどよ、どうして兄貴が怖ぇんだ? あいつの兄貴ってそんなヤベェ奴なの?」
「頭が良くて顔が良くて何でもこなしちゃうスーパーマン」
「なんだそれ」
「そういう人なんだって。佐倉が言ってた。……佐倉は、そんなお兄さんみたくなりたいみたい」
「ふーん」
興味なさげに壱伊は返した。そして、吐き捨てるように、
「バッカみてぇ」
「イチ?」
聞き返したが、壱伊は答えない。沈黙したまま佐倉を睨みつけている。硅はなんとなくいたたまれない気持ちになり、自分の足元に目をやった。
その耳に、佐倉と久世の会話が聞こえてくる。
「それにしても……残念だよ。僕達を潰すんじゃなかったの?」
「…………」
「結局、口だけか」
言って、久世はふぅ、と溜め息をついた。二人は沈黙し、緊張感に満ちた間が空く。ややして、久世は刀を握る手に力を込めると、ゆっくりと前へ踏み出した。
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