不本意な結果における形骸化された議論の結末

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「安達って、あの大人しい奴だっけ。何かあったのか?」 「あー……。いや、いい。それよか、硅のバカ見なかったか?」  立ち上がりざま、大きく背伸びをして尋ねると、久世は眉を顰めて辺りを見回した。 「いや? なんだ。崎坂も来てたのか」 「まったく……。どこ行っちまったのかなー……」  溜め息をついて首筋を擦っていると、 「あ!! イチ! ようやく見つけたー!」  嬉しそうな声が背後で聞こえた。  見ると、硅がバタバタと駆けて来る。相変わらず子犬のようだ。 「ちゃんと最初の場所にいなきゃダメだろー? 探しちゃったじゃん……って、あれ? 久世もいる」 「書庫の整理の手伝い。終わったんだ」 「お前に迷子扱いされるなんてなー。情けなくて涙が出らぁ」  小馬鹿にした壱伊の言葉に、硅は不満げな顔で言い返す。 「思いっきり寝てたくせに。なんで、いきなりいなくなるんだよ。こっちは探し回って大変だったんだからな」 「それを言うなら俺だってなぁ」 「久世とダベってただけだろ?」 「バカ。コイツとはさっき会ったばっかりだ」  言い合う二人を呆れた顔で見やり、久世は溜め息をついた。  ふと、硅の手元の文庫本に気付く。 「崎坂。その本は?」  尋ねると、硅は口喧嘩を忘れて、持っていた文庫本を嬉しそうに久世に見せた。  表紙には、車を走らせている老人と翼が生えた猫が描かれている。 「ずっと借りられててさ。ようやく読めるから嬉しくて」 「あぁ……。これ、僕も読んだことあるよ。SFだよね。すごい好きな本」 「ほんとに!? あ、じゃぁさ、あれ持ってる? 『我語りて……」  二人がSF話に花を咲かせている間、手持ちぶさたになってしまった壱伊は、所在なげに本棚に寄りかかった。  それから数分後、割れたチャイムの音が昼休みの終わりを告げた。  
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